01QC と QA を取り違えない ── 役割の線引き
多くの制作現場で QA が機能しないのは、QA が QC の「もう一回」になっているからだ。同じ人が、同じ目で、同じチェックリストを二度なぞる。これは検査の重複であって保証ではない。
QC(第 7 回 校正・整合性検査)が見るのは「内部品質」── 仕様書どおりに作れているか。誤字、リンク切れ、図表番号、数値の転記、トンマナ。対して QA が見るのは「外部適合性」── これを世に出して薬機法・適正広告基準・販提G・製薬協コードに照らして問題が出ないか、そして発注意図が実現されているか。
| 観点 | QC(ゲート C) | QA(ゲート D) |
|---|---|---|
| 問い | 仕様どおりか | 世に出してよいか |
| 主担当 | 校正者・整合性検査者 | QA 担当(作成者と別人) |
| 基準 | 原稿・仕様書・スタイルガイド | 規制4階層+発注意図+QC完了記録 |
| 出力 | 欠陥リスト・修正版 | 納品可否判定+署名 |
| 失敗の質 | 誤字が残る | 違反物が世に出る |
02独立性 ── 作った本人に「出してよい」と言わせない
QA SOP の根幹は一行で言える。作成者と QA 担当を分ける。これは性善説・性悪説の話ではなく、認知の構造の話だ。自分が書いた文章の論理の飛躍は、書いた本人には見えない。発注意図を「これで満たした」と思い込んだ当人は、満たしていない可能性を検証できない。生成者(Generator)と評価者(Evaluator)が同一だと、評価は自己正当化に堕ちる。
| 独立性レベル | 体制 | 許容範囲 |
|---|---|---|
| L3 完全独立 | 別チーム・別レポートラインの QA | 承認資材・新規ブランド初号 |
| L2 担当独立 | 同チーム内で作成者≠QA担当 | 改訂版・既存テンプレ流用 |
| L1 時間独立 | 同一人物だが48時間以上空けて別チェックリストで | 軽微修正・社内資料のみ(資材不可) |
納期が迫り、作成したディレクターが自分で QA チェックリストを埋めて「問題なし」で署名。発注元には「ダブルチェック済み」と報告した。
作成ディレクターは QC まで。QA は案件に関与していない別担当が、QC 完了記録を受け取ってから着手。差戻し 2 件を検出し、署名は修正反映後に行った。
03ゲート D 通過基準 ── 何を満たせば「出してよい」か
「だいたい大丈夫」で署名してはならない。通過基準は事前に明文化し、全項目 PASS でなければ通過させない。基準は3層(規制適合性→科学的正確性→意図の実現)の順で並べる ── この順は本連載第 1 回の品質定義に対応する。
- 規制適合性(必達・1件でもNGなら差戻し): 効能効果・用法用量が承認範囲内。誇大・断定的表現なし(薬機法§66)。未承認薬・適応外の広告該当表現なし(§68)。情報提供活動が広告と峻別され、依頼ベース等の要件を満たす(§68の2/販提G)。比較・安全性・経済性表現が適正広告基準に適合。製薬協コード/作成要領の手続要件(承認番号・引用・利益相反等)を充足。
- 科学的正確性: 全主張に出典が紐づく。引用が原著と一致(改変・切り取りなし)。データの母集団・条件・限界が明示。QC 完了記録あり。
- 意図の実現: 発注時の SOW・コンセプト(ゲート A)を満たす。対象読者・使用シーン・媒体要件に適合。
04QA チェックリスト(SOP 本体)
以下を案件票に綴じ、各項目に判定(P/F/N-A)・確認者イニシャル・確認手段(原典頁番号等)を残す。空欄のままの署名は無効とする。
| # | 確認項目 | 根拠 | 判定 |
|---|---|---|---|
| D-1 | 効能効果・用法用量が添付文書/承認範囲内 | 薬機法§66 / 広告規制01 | P/F |
| D-2 | 誇大・最大級・安全性の断定表現なし | 適正広告基準03 | P/F |
| D-3 | 未承認・適応外の広告該当表現なし | 薬機法§68 | P/F |
| D-4 | 情報提供と広告の峻別、依頼/限定提供要件 | 薬機法§68の2 / 販提G04 | P/F |
| D-5 | 比較・経済性表現が基準適合 | 販提G Q&A05 | P/F |
| D-6 | 製薬協コード/作成要領の手続要件充足 | 06 / 07 | P/F |
| D-7 | 全主張に出典、引用が原著一致 | 科学的正確性 | P/F |
| D-8 | QC完了記録(ゲートC)添付 | 第7回 | P/F |
| D-9 | SOW/コンセプト(ゲートA)適合 | 第2回 | P/F |
| D-10 | 媒体・版・改訂番号・公開範囲が指示と一致 | トレーサビリティ(第10回 準備中) | P/F |
N-A(該当なし)を使う場合は理由を一行で残す。例「D-5:比較表現を含まないため N-A」。理由なき N-A は F として扱う。
05納品可否の判定ロジック ── 3つの出口
QA の出口は3つしかない。曖昧な「条件付きOK」を口頭で流さず、必ずこの分類に落とす。
| 判定 | 条件 | 次のアクション |
|---|---|---|
| PASS(納品可) | D-1〜D-10 すべて P | QA署名→納品工程へ |
| RETURN(差戻し) | 規制項目(D-1〜D-6)に1件以上 F、または科学/意図に重大 F | 欠陥票を発行し作成者へ差戻し。修正後は再QA |
| ESCALATE(エスカレーション) | 判定がグレー(規制解釈が分かれる/前例なし/発注意図と規制が衝突) | 第06章の経路へ。QA単独で署名しない |
D-4(情報提供と広告の峻別)がグレーだったが、納期優先で QA 担当が「たぶん大丈夫」と自己判断して PASS。後日 MR 配布資材として広告該当と指摘され回収。
D-4 がグレーと判断した時点で PASS せず ESCALATE。薬事/メディカル法務に照会し、文言修正の上 RETURN→再QA→PASS。判断と根拠を案件票に記録。
06エスカレーション経路 ── 誰に・何を・いつ上げるか
エスカレーションを「上司に相談」で済ませると、判断の根拠が残らず再現しない。経路・トリガー・記録を SOP として固定する。
| トリガー | 上げ先 | 添える情報 |
|---|---|---|
| 規制解釈が分かれる(D-1〜D-6グレー) | 社内薬事/メディカル法務 | 該当箇所・条文・両解釈・QA仮判定 |
| 発注意図と規制が衝突 | 発注元の薬事審査担当+営業窓口 | 意図・抵触条文・代替案2つ |
| 前例のない媒体・表現 | QA責任者→必要なら外部薬事コンサル | 新規性の説明・類似事例 |
| 納期内に解決不能 | PM+発注元(納期再交渉) | リスク・最短解決日・暫定案 |
エスカレーション時は「QA担当の仮判定」を必ず添える。判断を丸投げせず、自分の見立てと根拠を出した上で上位の確認を仰ぐ ── これが回答の質と速度を上げる。回答は案件票に記録し、同種案件の判断先例として蓄積する。
07QA 署名 ── 何に責任を持つ署名か
署名は形式ではなく責任の所在の明示だ。誰が・いつ・何を根拠に「出してよい」と言ったかを残す。署名欄には最低限こう書く。
- QA担当者名・署名日時(作成者と異なることを確認できる氏名)
- 対象成果物の版・改訂番号(署名はその版に限定。差替えれば署名は無効)
- 判定(PASS / 該当なし項目とその理由)
- QC完了記録の参照番号(ゲートC通過の裏付け)
- エスカレーション照会があればその回答参照
署名済みでも、新たな規制改正・回収事例・添付文書改訂が判明したら遡及的に再QAを起動する。署名は「その時点での保証」であって永続保証ではない。
08QA を回す運用 ── 記録・指標・改善
SOP は運用してはじめて品質になる。QA 工程そのものを測り、改善する。
- 差戻し率(RETURN件数/QA件数): 高すぎれば上流(作成・QC)の問題。低すぎ&流出ありなら QA が機能していない。
- 規制項目別 F 頻度: D-2(誇大表現)が多い等、傾向が出れば作成段階のチェックや教育に反映。
- 流出件数(納品後に発覚した不適合): QA の真の失敗指標。1件ごとに根本原因分析と SOP 改訂。
- エスカレーション解決リードタイム: 長すぎれば経路か権限設計の見直し。
これらは次工程のトレーサビリティ(第10回 準備中)と連結する。どの版を・誰が・何を根拠に通したかが追えてはじめて、流出時の原因究明と再発防止が成立する。QA SOP は単独で完結せず、ライフサイクル全体の記録に接続して機能する。
- QA は QC の再実行ではなく「世に出してよいか」の判断。作成者と QA 担当を分ける独立性が SOP の根幹で、製薬資材は最低 L2、承認資材初号は L3。
- ゲートD通過基準は規制適合性→科学的正確性→意図の実現の順。規制(D-1〜D-6)は重み付け不可で、1件のNGで全体NG。出口は PASS / RETURN / ESCALATE の3つだけ、グレーは PASS しない。
- QA署名は「版」に紐づく責任の明示。署名後の1文字修正で失効し再QA。差戻し率・流出件数を測り、トレーサビリティに接続して改善を回す。
- 厚生労働省『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)』(第66条・第68条・第68条の2の逐条解釈). 医薬品の広告規制の一次根拠。
- 厚生労働省『医薬品等適正広告基準』(平成29年9月29日 薬生発0929第4号). 比較・安全性・経済性表現の適否基準。
- 厚生労働省『医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン』(販提G). 情報提供活動と広告の峻別・手続要件。
- 日本製薬工業協会『医療用医薬品プロモーションコード』および『製薬協 作成要領』. 業界自主規範と資材作成の手続要件。
- 飯田耕太郎ほか『医薬品広告審査の実務』薬事日報社. 審査実務での判定基準と差戻し事例。
- 日本規格協会『ISO 9001:2015 要求事項の解説』(品質マネジメントシステム). 検証・妥当性確認・記録管理の一般原則。
- 棚橋伸雄『現場で使える品質管理SOPの作り方』日科技連出版社. SOP設計・署名・逸脱管理の実務。