医師や患者に渡す説明資料を、事実からズラさずに、それでいて相手にちゃんと届く形にする。この二つを同時に背負うのが「つくり手」です。この序章では、つくり手の力をどう育て、どう見極めるのか、その全体の地図を一枚で渡します。細かい話に入る前に、まず全体の形をつかんでください。

一つの問いから始める ── 空港の検査場にたとえて

空港の保安検査を思い浮かべてください。荷物を止めすぎれば乗客はいらだち、列が伸びます。逆にゆるすぎれば危険物が通ってしまう。検査員は「安全」と「流れ」という、ときに逆を向く二つを同時に守らなければなりません。製薬資材(医師や患者に渡すパンフレットや説明資料のこと)をつくる人も、これとよく似た立場にいます。

つくり手が背負う問いは一つです。事実からズラさず、しかも相手に正しく届く形にできるか。正確さだけなら論文を丸ごと渡せばいい。届きやすさだけなら耳に心地よい言葉を並べればいい。けれど、その二つは片方だけでは意味を失います。正確でも伝わらなければ読まれず、伝わっても事実とズレていれば人を誤らせる。つくり手は「正しさ」と「伝わりやすさ」を同時に背負う人です。

正確さは床、伝わりやすさは天井。床が抜ければ、どんなに高い天井も意味をなさない。

二つのものさし ── 料理人のたとえ

腕のいい料理人を思い浮かべてください。一つ目の力は「素材に忠実であること」。鮮度や産地をごまかさず、悪くなった材料を盛りつけで隠したりしない。二つ目の力は「食べる人に合わせて出す設計」。同じ素材でも、子ども向けと年配向けでは切り方も味つけも変える。つくり手の力も、この二つのものさしで見ます。

一つ目を「事実への忠実さ(接地)」と呼びます。資材に書いた一文を、いつでも元の出典(その主張のもとになった公開された資料や試験データのこと)に戻して確かめられるか、という力です。二つ目を「伝える設計力(到達)」と呼びます。読む相手の知識や関心に合わせ、情報を届く形に組み立てる力です。この二軸を掛け合わせると、四つの型が見えてきます。

忠実さ設計力どんな資材になるか
危ない素人不正確なうえ、読んでも伝わらない
正しいが届かない事実は合っているが、難しくて読まれない
危ない売り込み説得力はあるが事実とズレる。最も危険
本道正確で、しかもちゃんと届く

ここで一番こわいのは、左下の「危ない素人」ではありません。左上の「危ない売り込み」です。下手な誤りはすぐ見破られますが、うまく設計された誤りは説得力をまとって読者に信じ込まれてしまうからです。だからこの地図では、忠実さが設計力の上限を決める、と考えます。土台がゆるい場所には、高い建物は建てられません。

三つの役割と八つの力 ── つくる前・つくる・出す前後

料理を「仕込み・調理・盛りつけと味見」に分けるように、つくり手の仕事も流れで三つの役割に分けられます。【確かめる(つくる前)】【形にする(つくる)】【正す(出す前・後)】の三つです。そしてこの三役割の中に、合わせて八つの力があります。

役割ひとことで言うと
確かめる(つくる前)1 出典接地力主張を元の資料に戻して裏が取れる
2 釣り合い設計力効きめと副作用など、良い面と悪い面を釣り合わせて見せる
3 誤認予測力読み手がどう誤解しそうかを先回りして読む
形にする(つくる)4 規制翻訳力守るべき決まりを、現場で使える表現に置き換える
5 訴求設計力事実を、相手に届く順序と言葉に組み立てる
正す(出す前・後)6 自己審査力出す前に自分の作物を疑い、点検する
7 改訂対応力新しい情報が出たら直し、版を管理する
8 信頼蓄積力反応や指摘を次の資材に活かして積み上げる

八つを別々に覚える必要はありません。「確かめてから形にし、出す前後で正す」という流れさえ頭に入れば、どの力がどこで働くかは自然に並びます。仕込みの甘い料理は盛りつけで救えない。同じように、確かめが甘い資材は、設計や見直しでは救えません。

四つの段階 ── 運転免許のたとえ

運転を覚える道のりを思い出してください。最初は教官に言われた通りに動かすだけ。次に教習所のコースという型をなぞって走れるようになる。やがて、なぜその操作が要るのかを理解して初めての道でも応用できる。最後には、人に教えたり安全のしくみそのものを考えられるようになる。八つの力それぞれを、この四段階で見ます。

段階状態運転でいえば
L1言われた通り、その案件だけこなす教官の指示で動かす
L2型を覚えて、自分で再現できる決まったコースを走れる
L3「なぜ」を理解し、初めての場面に応用できる知らない道でも判断して走れる
L4しくみごと設計し、人が従える標準を作る教官になり、安全のルールを設計する

大事なのは、段階は力ごとに違っていてよい、ということです。ある人は「確かめる」力はL4でも、「形にする」力はL2かもしれません。一律に「この人はL3」とまとめず、力ごとに見るほうが、育て方も任せ方もはっきりします。

合否の考え方と、三つのシリーズの地図

健康診断を思い浮かべてください。視力や聴力がどれだけ良くても、心臓に重い異常があれば「総合的に健康」とは言えません。ある一点が欠けると他の長所で埋め合わせられない項目を、ここでは「ゆずれない床(必要条件)」と呼びます。つくり手の評価でも同じです。訴求のうまさで、出典に戻れない弱さを埋めることはできません。

説得力で誤りを覆い隠せてしまうからこそ、「出典に戻れるか」を絶対の床に置く。床を満たして初めて、総合点(卓越)を語れる。

この考え方を、これから三つのシリーズで順に開いていきます。順番にも意味があります。まず力そのものを定義し、次にその力を見分ける方法を示し、最後に実際の成果から測る、という流れです。

シリーズ問い役割
良い資材をつくる人の力そもそも何ができれば「力がある」のか八つの力を定義する
一人で任せられる作成者の見分け方その力をどう見抜き、どこまで任せるか段階と床で見極める
つくった資材と行動から実力を測る実際の成果と動き方から、どう確かめるか結果で裏づける

細かな各論に入る前に、この一枚を手元に置いてください。一つの問い、二つのものさし、三つの役割と八つの力、四つの段階、そして三つのシリーズ。これが、つくり手を育て評価するための地図の全体です。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. つくり手は二つを同時に背負う. 事実への忠実さ(接地)と伝える設計力(到達)。正確さは床、伝わりやすさは天井で、床が抜ければ高い天井も意味をなさない。
  2. 最も危険は「危ない売り込み」. 低忠実×高設計は、説得力をまとった誤りで読者を誤らせる。下手な誤りより見破りにくいため、忠実さが設計の上限を決める。
  3. 地図は一枚. 一つの問い→3役割8力(確かめる・形にする・正す)→二軸→L1〜L4の四段階→3シリーズ。各力は段階が違ってよく、出典に戻れるかを絶対の床に置く。
出典・参考文献
  1. 厚生労働省「医薬品等適正広告基準」および関連通知 ── 医療用医薬品の広告・情報提供で守るべき基準の公的資料。
  2. 日本製薬工業協会「医療用医薬品プロモーションコード」 ── 業界共通の自主基準としての一般的言及。
  3. 行動評価面接(BEI)およびSTAR法に関する一般的解説 ── 過去の具体行動から能力を読み取る評価手法の教科書的文献。
  4. コンピテンシー評価に関する一般的な教科書・解説 ── 役割と段階で能力を記述する枠組みの基礎文献。