「うまく作れます」と言う人は多い。でも本当に知りたいのは、その人がこの前の仕事で、何を渡され、どこで迷い、どう手を動かし、最後に何を出したか、だ。完成品だけでは過程が見えない。だから一本の仕事を、起きた順にたどる。映画を早送りせず、頭から通しで観るように。

なぜ「順にたどる」のか ── 料理を一皿だけ見ても分からない

レストランで出てきた一皿がおいしくても、その料理人の腕は半分しか分からない。材料をどこから仕入れたか、傷んだ食材をどう見抜いたか、火加減で何度やり直したか。出来上がった皿は、その全部を一枚に畳み込んでしまう。だから本当に腕を知りたければ、仕込みから盛り付けまで、台所での動きを順に見る必要がある。

資材作成者の評価も同じだ。完成したパンフレットだけを見ても、その人が「事実への忠実さ(出典からズラさないこと)」と「伝える設計力(相手に届く形にすること)」をどう両立させたかは見えない。たまたま元の論文が分かりやすかっただけかもしれないし、上司が全部直したのかもしれない。だから第1回で確認した「実際の成果物で測る」という方針を一歩進め、今回はその成果物がどう作られたかを、起きた順に聴き取る。

この「順にたどる」聴き方には名前がある。行動を四つの角度から時系列で聴くSTAR法(スター法。Situation状況・Task課題・Action行動・Result結果の頭文字)だ。採用面接や行動評価で長く使われてきた、地に足のついた方法である。

STARの四つの問い ── 健康診断の問診のように

健康診断の問診を思い出してほしい。医師はいきなり「健康ですか」とは聞かない。「いつから」「どんな症状で」「何をして」「今どうなったか」を順に聞く。順番に聞くから、本人も思い出しながら正確に答えられる。STARはこの問診の作りに似ている。

四つの問いを、資材制作の現場に当てはめるとこうなる。まず状況(Situation)=どんな場面だったか。どの薬の、誰に渡す資材を、いつまでに。次に課題(Task)=その中で自分が背負った宿題は何か。「事実を曲げずに、難しい臨床データを医師が三秒で読める図にする」といった具体的な宿題だ。続いて行動(Action)=実際に手を何回、どう動かしたか。ここが一番大事で、後で詳しく見る。最後に結果(Result)=何ができ、どう確かめ、次にどう活きたか。

四つの問い聴くこと資材制作での例
状況 Sいつ・誰に・何のための仕事か糖尿病薬の説明資料、開業医向け、月末締切
課題 T自分が背負った具体的な宿題長い臨床試験の数字を、誤解なく一枚図にする
行動 A実際に何を何回、どう判断して動いたか原典の数値を確認、表現を三案作り審査部門に相談
結果 R成果・確かめ方・次への活かし方図を採用、社内チェック一発通過、テンプレ化

「行動(A)」を深掘りする ── 主語が「私」か「私たち」か

校正刷り(印刷前の試し刷り)を赤ペンで直す場面を想像してほしい。「誰がどの赤を入れたか」が分からなければ、校正の腕は測れない。資材制作でも同じで、STARで一番ごまかしが起きやすいのが行動(A)だ。だから聴き手は、主語に注意して掘り下げる。

たとえば「分かりやすく整理しました」と言われたら、止まらずにこう聞く。「整理したのは具体的にどの部分ですか」「なぜその順番にしたのですか」「元の論文のどの数字を、どう図に移しましたか」。すると、本人が手を動かした範囲と、チームがやった範囲が分かれて見えてくる。主語が「私たち」ばかりで「私」が出てこないなら、その人自身の行動はまだ薄いということだ。

掘り下げの合言葉は三つ。「具体的にどこを」「なぜそうしたか」「出典のどこに戻ったか」。この三つを欠く話は、立派に聞こえても証拠にならない。

とくに「出典のどこに戻ったか」は外せない。冒頭の二軸でいう接地(事実への忠実さ)が、設計の上限を決めるからだ。どんなに見栄えのよい図を作っても、元のデータに戻って確かめていなければ、それは「説得力ある誤認」になりかねない。行動の深掘りは、見た目のうまさではなく、出典に戻る習慣があるかを確かめる作業でもある。

四段階で行動を読む ── 同じ「作った」でも中身が違う

運転免許に仮免と本免があるように、同じ「作れます」にも段階がある。STARで聴いた行動を、第1回で触れたL1〜L4の四段階に当てて読むと、その人の今の高さが見える。

段階行動(A)に表れる姿聴き取りでの手がかり
L1 その案件だけ言われた通りに直した「指示通りにしました」で説明が止まる
L2 型を再現過去のやり方を真似て作れた「いつものテンプレに沿って」と語れる
L3 なぜを応用理由を分かって場面に合わせ変えた「この医師向けだから順番を変えた」と理由を言える
L4 仕組みを設計他の人も使える型や基準を作った「次回から皆が使えるよう手順書にした」

注意したいのは、段階が高いほど無条件に偉い、という話ではない点だ。床(必要条件)と総合点(卓越)は別物である。L4の華やかな仕組み作りを語っても、その土台に出典への忠実さがなければ、評価は床を割る。聴き手はまず「この人は事実から外れていないか」を確かめ、そのうえで段階の高さを見る。順序を逆にしない。

聴き取りを記録に残す ── 証拠は時間とともに消える

旅行の記憶は、その日に書いた日記ほど正確には残らない。一週間経つと、楽しかった気分だけが残り、何時にどこで何を食べたかは曖昧になる。STARの聴き取りも、終わった直後に書き留めなければ、印象だけが残って具体が消える。

だから聴いた内容は、四つの問いごとに、本人の言葉に近い形で短くメモする。とくに行動(A)は、主語が「私」だった箇所と「私たち」だった箇所を分けて残す。次の第3回では、この記録から「事実への忠実さ」と「伝える工夫」の二つを読み取っていく。順にたどって集めた具体が、そこで初めて評価の材料になる。記録のない聴き取りは、おいしかったとだけ言って献立を忘れた食事と同じだ。

つくった資材と行動から実力を測る ── 全 10 回の地図

  1. 第 1 回: 印象や自己申告でなく、実際につくった資材で測る ── 資材作成者の力は、本人の自己申告や周囲の印象でなく、実際につくった成果物と出したときの行動から測る。
  2. 第 2 回 (本回): どんな依頼を、どう形にしたかを順にたどる ── 印象や記憶ではなく、実際の制作の流れ──どんな依頼で、何を考え、どう手を動かし、何ができたか──を順番に聴き取り、行動の証拠から作成者の力を読み取る回。
  3. 第 3 回: その仕事から「事実への忠実さ」と「伝える工夫」を読み取る ── つくった資材を、事実からズレていないか(忠実さ)と、相手に届くか(設計力)の二つの軸に置き換えて見る。印象でなく、成果物の中の手がかりから読み取る回。
  4. 第 4 回: 正しく測るための約束ごと ── 作り手の実力を測るとき、測る側がズレないための6つの約束ごとを決める。
  5. 第 5 回: ものさしは三つ ── 正確さ・伝わりやすさ・釣り合い ── 資材づくりの実力を測る三つの尺度を定義し、それぞれを四段階で採点する。正確さは床、伝わりやすさは天井へ届く力、釣り合いは過不足の調整。
  6. 第 6 回: レベルをどう決めるか ── 出典に戻れるかが上限 ── 出典に戻れない作は、どんなに見せ方がうまくても水準を上げられない。接地が天井を決める。
  7. 第 7 回: どんな成果物が見えたら、どのレベルか ── 作成者の力を、目に見える成果物と行動の型からL1〜L4で読み分けるアンカー表。
  8. 第 8 回: その判定を、どこまで信じていいか ── つくり手の力をレベル判定するとき、その判定がどれだけ確かかは「証拠が目に見えるか」で決まる。見えにくい力ほど判定はぶれる。ぶれを認め、確からしさごと扱う回。
  9. 第 9 回: 本人だけでなく、審査者・発注者の評価も合わせる ── 本人・審査者・発注者・AIの四つの目を重ねると、本人には見えない「語らなかった逸脱」が浮かび上がる。
  10. 第 10 回 (最終回): 測った結果を、合否と育成計画につなげる ── 出した点数を、合否の床と次に伸ばす力の計画につなぐ最終回。
結語

「作れます」という言葉は、一本の仕事を起きた順にたどると、具体的な行動の連なりに分解される。状況・課題・行動・結果を順に聴き、行動の主語が「私」か「私たち」かを見分け、そのうえで出典に戻る習慣を確かめる。これが印象論を証拠に変える手順だ。

次の第3回では、こうして集めた具体から「事実への忠実さ」と「伝える工夫」の二つを読み取る。順にたどって残した記録が、その読み取りの土台になる。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 完成品ではなく過程を順に聴く. 状況・課題・行動・結果(STAR)を時系列でたどると、自己申告では見えない実際の判断と手の動きが現れる。
  2. 行動の主語を見分ける. 「私たち」ではなく「私」が何をどこで、なぜ、出典のどこに戻って動いたかを掘る。三つの合言葉が立派な話を証拠に変える。
  3. 段階より先に床を確かめる. L1〜L4の高さを見る前に、事実への忠実さ(接地)を満たしているかを確認する。順序を逆にしない。
出典・参考文献
  1. 行動評価面接(BEI)とSTAR法の一般的解説 ── 過去の具体的行動を状況・課題・行動・結果の四点で聴き取る面接技法に関する教科書的文献。
  2. コンピテンシー評価の基礎文献 ── 職務遂行能力を観察可能な行動と段階(レベル)で記述・評価する考え方の一般的解説。
  3. 厚生労働省「医薬品等適正広告基準」 ── 医療用医薬品の資材における事実への忠実さ・誇大表現の禁止に関する公的指針。
  4. 日本製薬工業協会「医療用医薬品プロモーションコード」 ── 製薬資材の作成・提供にあたって求められる正確性と適正性の一般的枠組み。