「あの人は優秀そう」では評価にならない。手元に残った資材と、つくる過程でとった行動。その目に見える証拠だけを並べて、L1からL4のどこに立っているかを当てる。この回はその対応表をつくる。
運転免許の段階で考える
運転の腕は口では測れない。だから免許は、坂道発進や車庫入れといった「やってみせた動き」で段階を分ける。仮免、本免、そして何年も無事故で走り続けた人。同じ「運転できます」でも、見えた行動の中身がまるで違う。
資材をつくる力も同じだ。「自分は出典をちゃんと確認しています」という自己申告では、L1なのかL4なのか分からない。判定の材料は、実際に出てきた成果物と、つくる途中でとった行動しかない。この回でつくるのは、その「見えたものとレベルの対応表」、つまりアンカー(錨)だ。アンカーとは、ふわふわした印象を一点に固定する目印のことだ。
段階はL1〜L4の四つ。L1=言われた通りその案件だけ。L2=型を覚えて自分で再現できる。L3=なぜそうするかを理解して別の場面に応用できる。L4=仕組みごと設計して職場の標準を作れる。この四段階を、力ごとに「何が見えたらそのレベルか」へ落としていく。
同じ仕事でも、見える行動でレベルが分かれる
料理の見習いを想像してほしい。レシピ通りに一皿だけ作れるのがL1。同じ料理を分量を覚えて毎回安定して出せるのがL2。なぜ塩を先に入れるかを理解して別の食材でも応用できるのがL3。厨房の手順書を書いて新人が同じ味を出せる仕組みを作るのがL4。出てくる皿だけでなく、その人の動きを見ればどこに立っているか分かる。
資材作成では、たとえば「出典に戻れるか(接地)」という一番大事な床を例にとる。L1の人の成果物には、引用元のページ番号が抜けていたり、孫引き(誰かのまとめを原典代わりに使うこと)が混ざる。L2になると出典欄は整い、求められれば原典を出せる。L3は、出典の限界(対象患者・観察期間・例数)まで読み取って資材の言い回しを調整する。L4は、出典確認の手順そのものをチェックリスト化し、チーム全員が同じ床を踏めるようにする。
| レベル | 見える成果物・行動 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| L1 | 言われた1案件だけ仕上げる。ページ番号抜け・孫引きが残る | その場限り |
| L2 | 出典欄が整い、求めれば原典を即出せる。型が安定 | 再現できる |
| L3 | 出典の限界(例数・対象・期間)まで読み、表現を調整 | 応用できる |
| L4 | 確認手順を標準化し、他人にも同じ床を踏ませる | 仕組みを作る |
逸脱事例を裏返すと、レベルの境目が見える
健康診断を思い出してほしい。異常値の出方を見れば、体のどこに無理がかかっているかが分かる。逸脱事例も同じで、何をやってしまったかを裏返すと、その人がどのレベルで止まっていたかが見えてくる。
報告された事例では、主要評価項目(その薬で一番確かめたかった結果)の資料を用意せず、有意差の出た副次的な結果だけを説明したケースがあった。これは「型は覚えたが、なぜ主要評価項目を先に出すかを理解していない」段階、つまりL2止まりの不作為だ。語らないことで自分を守る、という心理ドライバーがここに重なる。
別の事例では、日本人の小集団で差が出ていないのに「差が出ている」と説明し、指摘されると「教授も問題ないと言っている」と権威に責任を逃がした。これは応用力の不足に、責任の外部化という心理が組み合わさったものだ。L3を名乗れるなら、サブグループの数字の弱さを自分の言葉で説明できなければならない。下の表に、事例とレベル、止める力の対応を示す。
| 報告された逸脱 | 露呈したレベル | 本来止める力 |
|---|---|---|
| 主要評価項目を出さず副次項目だけ説明 | L2止まり(不作為) | 釣り合い設計力(全体像を出す) |
| 差のないサブグループを「差あり」と説明 | L2〜L3未満 | 出典接地力(数字の限界を読む) |
| 縦軸を一部拡大して差を大きく見せる | 低忠実×高設計の危険型 | 自己審査力(出す前に自分で疑う) |
| 必須のスクリーニングを「不要」と記載 | 接地の床割れ | 誤認予測力(読み手の誤解を先読み) |
三番目の縦軸操作は要注意だ。グラフを目立たせる設計の腕はある。けれど事実への忠実さが伴っていない。これが本セクションで最も危険とする「高設計×低忠実=説得力ある誤認」で、レベルが高いどころか床が割れている。設計のうまさは、接地の穴を埋めない。
レベルは力ごとに違っていい
校正刷り(印刷前の試し刷り)を何人かで見ると、誤字に強い人、言い回しに強い人、数字の裏取りに強い人が分かれる。一人の中でも得意不得意があるのが普通だ。資材作成の8つの力も同じで、全部が同じレベルにそろうことはまずない。
たとえば訴求設計力(伝わりやすく見せる力)はL3なのに、出典接地力はL2、という人がいる。このとき総合点だけ見ると「まあまあ」に見えてしまう。だが本セクションの合否の論理では、接地のような床は非代償ゲートだ。非代償とは、他の項目の高得点で穴を埋め合わせできない、という意味だ。床が割れていれば、訴求がどれだけ上手でも合格にはしない。
見えた成果物を力ごとに並べ、まず床(接地)が抜けていないかを確かめる。床が抜けていれば、他の力の高さは順位を上げる材料にしない。床を満たした上で、総合の高さを卓越として評価する。
だから評価表は一つの数字ではなく、力ごとのレベルを並べた形にする。「出典接地L2/釣り合いL3/訴求L3/自己審査L2」のように見えるようにしておけば、どこを伸ばせば次の段階かが本人にも分かる。これは断罪のための表ではない。自分のどの回路が弱いかを、本人が自己監視するための地図だ。
アンカー表の使い方と落とし穴
空港の手荷物検査では、係員によって判断がぶれないよう「これが映ったら止める」という見本写真が貼ってある。アンカー表も同じ役割で、評価する人が変わっても判定がそろうようにするための見本だ。ただし見本を機械的に当てはめるだけだと、かえって誤判定が起きる。
落とし穴は三つある。第一に、成果物が良くても、たまたま良い依頼・良い素材に恵まれただけかもしれない。だから一件でなく複数の仕事を並べて、安定して出せるか(L2の核心)を見る。第二に、行動の証拠が残っていない場合だ。出典確認をしたのに記録がなければ、第三者には接地を確認できない。記録を残すこと自体がL3〜L4の証拠になる。第三に、表に当てはまらない優れた工夫を、表にないからと低く見てしまうことだ。アンカーは床と典型を固定するためのもので、卓越の上限を決めるものではない。
次の第8回では、こうして当てたレベル判定を「どこまで信じていいか」を扱う。同じ成果物を別の人が見ても同じレベルになるか、という判定の確からしさの話につなげていく。
つくった資材と行動から実力を測る ── 全 10 回の地図
- 第 1 回: 印象や自己申告でなく、実際につくった資材で測る ── 資材作成者の力は、本人の自己申告や周囲の印象でなく、実際につくった成果物と出したときの行動から測る。
- 第 2 回: どんな依頼を、どう形にしたかを順にたどる ── 印象や記憶ではなく、実際の制作の流れ──どんな依頼で、何を考え、どう手を動かし、何ができたか──を順番に聴き取り、行動の証拠から作成者の力を読み取る回。
- 第 3 回: その仕事から「事実への忠実さ」と「伝える工夫」を読み取る ── つくった資材を、事実からズレていないか(忠実さ)と、相手に届くか(設計力)の二つの軸に置き換えて見る。印象でなく、成果物の中の手がかりから読み取る回。
- 第 4 回: 正しく測るための約束ごと ── 作り手の実力を測るとき、測る側がズレないための6つの約束ごとを決める。
- 第 5 回: ものさしは三つ ── 正確さ・伝わりやすさ・釣り合い ── 資材づくりの実力を測る三つの尺度を定義し、それぞれを四段階で採点する。正確さは床、伝わりやすさは天井へ届く力、釣り合いは過不足の調整。
- 第 6 回: レベルをどう決めるか ── 出典に戻れるかが上限 ── 出典に戻れない作は、どんなに見せ方がうまくても水準を上げられない。接地が天井を決める。
- 第 7 回 (本回): どんな成果物が見えたら、どのレベルか ── 作成者の力を、目に見える成果物と行動の型からL1〜L4で読み分けるアンカー表。
- 第 8 回: その判定を、どこまで信じていいか ── つくり手の力をレベル判定するとき、その判定がどれだけ確かかは「証拠が目に見えるか」で決まる。見えにくい力ほど判定はぶれる。ぶれを認め、確からしさごと扱う回。
- 第 9 回: 本人だけでなく、審査者・発注者の評価も合わせる ── 本人・審査者・発注者・AIの四つの目を重ねると、本人には見えない「語らなかった逸脱」が浮かび上がる。
- 第 10 回 (最終回): 測った結果を、合否と育成計画につなげる ── 出した点数を、合否の床と次に伸ばす力の計画につなぐ最終回。
レベル判定は、頭の良さや熱意ではなく、手元に残った成果物と、つくる過程でとった行動だけを材料にする。L1からL4のアンカー表は、評価者が変わっても判定をそろえるための見本であり、同時に、本人が自分の弱い回路を見つけるための地図でもある。
忘れてはいけないのは順序だ。まず接地という床が抜けていないかを確かめ、床が割れていればどれだけ設計がうまくても合格にしない。床を満たした上で、力ごとのレベルを並べて卓越を測る。次回はこの判定そのものを、どこまで信じてよいかを問う。
- 材料は成果物と行動だけ. 自己申告や印象でなく、実際に出てきた資材と、つくる過程で残した行動証拠からL1〜L4を当てる。
- 床は非代償. 出典に戻れるか(接地)が抜けていれば、訴求や設計がどれだけ高くても合格にしない。最も危険は高設計×低忠実。
- レベルは力ごとに並べる. 8つの力は一律にそろわない。力ごとのレベルを並べることで、本人がどの回路を伸ばせばよいか自己監視できる。
- 厚生労働省 医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課(委託事業). 医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業 報告書(令和6年3月ほか各年度). 指摘事例は社名匿名で公表。本稿の逸脱事例はここに基づく一般化。
- 厚生労働省. 医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン. 主要評価項目・副次評価項目の扱い、エビデンスの限界の明示に関する一般原則の参照。
- 日本製薬工業協会. 医療用医薬品プロモーションコード. 公正・正確・客観的な情報提供の原則として参照。
- 能力評価の一般文献. 行動証拠に基づく段階評価(BEI/STAR法、行動アンカー型評価尺度BARSの考え方)を、レベルアンカー設計の方法論として参照。