コードは法律ではない。守るか、守らない理由を説明するか。その選択自体が市場に評価される。本稿は、コーポレートガバナンス・コードがソフトローであることの意味と、comply or explain という作法を、資材審査の社内基準に重ねて読む。
01原則を示す ── 細則主義ではなく原則主義
コーポレートガバナンス・コードは、やってよいこと・悪いことを細かく列挙する細則主義(ルールベース)ではありません。守るべき原則を示し、その具体化を各社に委ねる原則主義(プリンシプルベース)で組まれています。だから「守らない」も選べる。ただし、選んだ以上は説明責任がついて回ります。
原則主義には理由があります。上場会社の規模も事業も統治の歴史もばらばらで、画一の細則を当てはめれば、ある会社では過剰、別の会社では空回りになる。原則だけを示し、各社の事情に応じた最適解を許す代わりに、なぜその形にしたのかを説明させて透明性を担保する。画一を避ける自由と、説明する義務は一対で設計されている。資材審査の社内基準も同じ作りで、逸脱は一律禁止ではなく、根拠を説明できるかが分かれ目になる場面があります。
02法令ではない ── ソフトローという立ち位置
コードは法令ではありません。違反しても、それ自体に直接の罰則があるわけではない。いわゆるソフトローです。では何が拘束力の根拠かといえば、東京証券取引所の有価証券上場規程です。上場会社は、この規程を通じて comply or explain ── 各原則を実施するか、実施しない場合はその理由を説明するか ── を求められます。
ここで取り違えやすいのが目的です。全項目を形式的に comply することがゴールではありません。眼目は、自社に合った統治の形を選び、それを説明できることにある。「全部守りました」という報告は、必ずしも良い統治を意味しない。下の三つが、コードを読むときの座標になります。
プリンシプルベース
細則を列挙せず原則を示す。画一を避け、各社の事情に応じた最適解を許す代わりに、説明で透明性を担保する。
法令ではない
直接の罰則はない。拘束力の根拠は東証の有価証券上場規程であり、上場の枠組みを通じて実効性が働く。
遵守か、説明か
全項目の comply が目的ではない。実施しない理由(explain)を語れるかどうかが、統治の質として読まれる。
03explain の質が信認を分ける ── 資材審査の社内基準へ
comply or explain で本当に問われるのは、explain の質です。「実施しない理由」が空疎だと、形式上は comply していなくても、投資家や株主の信認を失います。逆に、自社の事情に即した厚みのある説明ができれば、原則を実施しない選択そのものが評価されることもある。伊藤レポートが促す資本コストを意識した建設的な対話も、この説明の文化の上に成り立っています。
同じ構造が資材審査にもあります。「なぜこの表現を許容したのか」「なぜこの訴求を不許容としたのか」。その説明の厚みが、審査の質を分ける。基準に照らして可否を出すだけでなく、判断の根拠を残し、語れるようにしておくこと。これは 社外取締役の独立性 や 指名・報酬・監査の委員会設計 が「外から検証できること」を担保しようとするのと同じ発想です。審査記録が統治の作動を映す証拠になる構図は、取締役会から見た資材審査であらためて扱います。
- コードは原則主義(プリンシプルベース)+ comply or explain。守らない選択も、説明責任とセットで認められる。
- CG コードは法令ではなくソフトロー。拘束力の根拠は東証の有価証券上場規程にある。
- 全項目を comply することが目的ではない。問われるのは explain の質と、自社に合った統治の説明。
- 空疎な explain は市場の信認を失う。資材審査でも「なぜ許容/不許容としたか」の説明の厚みが評価を分ける。
- 東京証券取引所. コーポレートガバナンス・コード. 原則主義(プリンシプルベース・アプローチ)および comply or explain(実施するか、実施しない場合は理由を説明するか)の枠組みを示す。
- 東京証券取引所. 有価証券上場規程. 上場会社にコードの各原則への comply or explain 対応を求める根拠規程。
- 経済産業省. 「持続的成長への競争力とインセンティブ ── 企業と投資家の望ましい関係構築」プロジェクト最終報告書(伊藤レポート, 2014). 資本コストを意識した企業と投資家の建設的な対話を促す。