「適応外ではありますが」「他院ではそのように使っている先生もいます」。この一言が、医薬品の販売情報提供活動で最も繰り返されてきた逸脱パターンの入口だ。承認されていない疾患への効果の示唆、添付文書に書かれた処方条件や投与間隔の軽視、割線もないのに「半錠できる」という説明。こうした行為は医師の処方判断を歪め、患者が未検証の治療を受けるリスクを直接生み出す。平成31年から令和7年までの7年間で、この種の逸脱は毎年記録され続けた。
So what / So why ── このカテゴリの本質
医薬品の承認とは、有効性と安全性が十分な証拠をもって確認された、その薬の「使い方の範囲」を国が認定することだ。効能効果(何の病気に使えるか)と用法用量(いつ、どれくらい使うか)はそのセットで承認される。承認の外側は、エビデンスが存在しないか、あっても不十分な領域だ。
それでも企業担当者が承認外の情報を医療者に伝えたくなる動機はわかりやすい。処方対象が広がれば売上が増える。医師に「実は〇〇にも効くようだ」と思わせれば、承認適応の患者が来院した際の優先選択につながる。「適応外ではありますが」という一言を前置きにすれば、あとはどんな情報を出しても免責されるかのように錯覚しがちだ。しかし、販売情報提供活動ガイドライン(以下「ガイドライン」)はこの論理を明確に否定している。「求めがない限り未承認情報を提供しない」「提供しても良い場合の手続きが別途定められている」のが現行ルールだ。
なぜそれが致命的かを患者視点で考えると明確になる。医師が「保険の査定を受けない用法だ」と言われた投与間隔の短縮を採用した場合、添付文書が警告していた重篤な副作用が生じても、その因果関係の記録もなく、製造販売後安全対策の網の外に落ちる。「他院では処方している例がある」という伝聞は、エビデンスの代わりにならない。伝聞で広がった使い方が薬害の前段になった事例を、医薬品の歴史は繰り返し記録している。
ガイドラインが①(未承認の効能効果や用法用量の提示)を最初のカテゴリに置くのは偶然ではない。他の逸脱(誇大表現、エビデンスなし説明、安全性軽視)はすべて、この「承認の枠内で正しく話す」という大前提が崩れた先に起きるからだ。
What / Where / Why / How ── ガイドラインの何に逸脱したか
What:具体的に何をする逸脱か
パターンは大きく四つに分類できる。①承認されていない疾患への効果を示唆する(「〇〇にも有効です」「他院ではそのように使っています」)。②承認された用法用量と異なる使い方を勧める(「投与間隔を短縮しても保険の査定は来ない」「半錠できます」「0.3mg/kg/時で投与している例があります」)。③承認前・申請中の情報を求めなく提供する(「承認される見込みです」「申請中ですが…」)。④処方のための条件を守らなくてよいと示唆する(「医師さえ研修を受けていれば他職種の研修は不要で処方している例がある」)。
Where:どの媒体・場面で起きるか
MRによる口頭説明(院内製品説明会、個別面談)が最多だが、オンライン面談、電話、Webセミナー、医療関係者向け情報サイト上の講習会、製薬企業と医療材料企業の合同説明会など、接触チャネルを問わず発生している。令和6年度以降は講演会でのスライド配信も問題視されている。
Why:なぜ作り手がそれをやってしまうか
四つの深層心理ドライバーのうち、このカテゴリで特に強く働くのは「局所合理化」と「動機づけられた推論」だ。「『適応外です』と前置きしたから問題ない」「医師が聞いてきたから答えた」という局所的な言い訳で自分を許す(局所合理化)。そして「この薬は本当は〇〇にも効くはず」という確信が先にあり、そこに証拠を後付けしようとする(動機づけられた推論)。承認前情報の提供では「承認前はメーカーから言い出せない」と言いながら話を誘導する「責任の外部化」も重なる。
How:ガイドラインの何に逸脱しているか
ガイドライン(2019年9月25日付け薬生監麻発0925第1号)は、販売情報提供活動の内容として「効能効果及び用法用量に関わる情報については承認範囲外の記載をしないこと」を明記し(ガイドライン第3の2(1)ア)、医療関係者から求めがない限り、承認範囲外の情報を積極的に提供しないよう求めている(同2(1)イ)。承認前製品の情報提供は同(2)に別途規制がある。
根拠法としては、薬機法第66条(虚偽・誇大広告の禁止)および第68条(承認前医薬品の広告禁止)が直接適用される。医薬品等適正広告基準(厚生労働省)は「承認等を受けた効能効果等の範囲をこえる表現の禁止」「用法用量について承認範囲をこえた表現の禁止」を定める。製薬協コード(医療用医薬品製品情報概要等に関する作成要領)も「効能効果・用法用量は承認範囲内のもの」と規定している。
事例 ── あますことなく
平成31年度(2019年)── 8件
媒体/製品領域:鎮痛薬/口頭(製品説明会)
何をしたか:「適応外である」と前置きしながら「他院では呼吸抑制に使用している医師もいる」と発言し、適応外使用を暗に推奨した。
どこが逸脱か:免責的な前置きをつけても、適応外使用事例の紹介自体が推奨に当たる。
原文:「他院では呼吸抑制に使用している医師もいる」
媒体/製品領域:脂質異常症治療薬/スライド+口頭(院内勉強会)
何をしたか:「一般論」と題したスライドに糖尿病患者像と食後TG推移グラフを挿入し、本剤が適応外の糖尿病に有効であるかのような印象を与えた。別の機関では「本剤に限りなく近い物質」と断った上で「インスリンへの反応性を改善する」と発言した。
どこが逸脱か:根拠のない関連性をラベルで包んで承認外効能をほのめかした。
原文:「本剤に限りなく近い物質」「インスリンへの反応性を改善する」
媒体/製品領域:抗真菌薬/口頭(新薬ヒアリング)
何をしたか:適応外の疾患について「おそらく効果があると思われる」と根拠なく説明した。
どこが逸脱か:有効性が認められていない疾患への効果を推測で提示。
原文:「おそらく効果があると思われる」
媒体/製品領域:パーキンソン病治療薬/口頭
何をしたか:添付文書で重篤副作用防止のため投与間隔が明記されているにもかかわらず、「投与間隔については明確なエビデンスがあるわけではなく、短縮しても保険の査定対象とならない」と説明した。同様の説明を地域の複数医療機関に広く行っていた。
どこが逸脱か:保険査定を受けないことを根拠に添付文書の投与間隔制限の逸脱を容認・推奨した。
原文:「短縮しても保険の査定対象とならない」
媒体/製品領域:糖尿病治療薬(配合剤)/口頭(ヒアリング)
何をしたか:配合成分の体重減少効果に言及した後、「本剤が体重に及ぼす影響」を参考情報として提示し、承認外の体重減少効果を示すかのような印象を与えた。
どこが逸脱か:「参考情報」として体裁を整えながら承認外効能をほのめかした。
原文:(本剤が)体重に及ぼす影響についての参考情報として言及
媒体/製品領域:慢性便秘症治療薬/Webサイト上の講習会
何をしたか:「薬剤性便秘を防ぐ」と題した講習会で、薬剤性便秘(適応外)についての一般的説明の後に本剤の説明を行い、適応外である旨は注釈に留め、「便を柔らかくして排泄を促す」「適応は慢性便秘症」とのみ説明した。
どこが逸脱か:講習会のテーマ設定自体が承認外効能への暗示となっており、適応外情報の提供が不十分。
原文:「薬剤性便秘を防ぐ」(講習会タイトル)
媒体/製品領域:抗血栓薬/口頭
何をしたか:新規格(20mg)の採用を一増一減原則で断ると、既採用の2.5mgを廃止し3.75mgを粉砕して用量調節するよう提案した。添付文書に粉砕投与の記載はなく適応外使用に当たる。
どこが逸脱か:採用削減を避けるために添付文書外の粉砕投与(適応外)を代替案として提示した。
原文:(3.75mgを粉砕して用量調節してほしい)
媒体/製品領域:脂質異常症治療薬/口頭
何をしたか:本剤は他剤との併用が必要であるにもかかわらず、「他剤の後発品など安い薬を一緒に処方して患者に『飲まなくてもよい』と説明すれば、保険の査定も受けずに単剤で使うことができる。実際にそのように処方している医師もいる」と発言した。
どこが逸脱か:保険査定を逃れる処方操作を提案し、添付文書が前提とする併用療法を骨抜きにした。
原文:「実際にそのように処方している医師もいる」
令和2年度(2020年)── 11件
媒体/製品領域:慢性便秘症治療薬/口頭(製品説明会)
何をしたか:添付文書の用法(1日1回食前)にもかかわらず、製品説明前に個別に「適応外だが、頓用での使用も効果がある」「食後でも問題ない」と発言。薬剤部向け説明会でも求めなく「食後投与でも特に問題は生じない」と適応外使用を推奨した。
どこが逸脱か:承認された用法を逸脱する頓用・食後使用を積極的に紹介・推奨した。
原文:「食後に使用しても問題ない」
媒体/製品領域:うつ症状治療薬/製品説明会
何をしたか:添付文書の用法(1日1回就寝前)にもかかわらず、「朝・夜での半量ずつの使用の方が眠気が抑えられるので、そのように使っている医師もいる」と発言した。
どこが逸脱か:承認用法と異なる分割・朝夜投与を「他の医師の例」として推奨した。
原文:「朝・夜での半量ずつの使用の方が眠気が抑えられるので、そのように使っている医師もいる」
媒体/製品領域:抗がん剤/口頭
何をしたか:A剤治療後の有効性データはあるが、B剤治療後のデータはない本剤について、B剤治療後の2次治療を検討する医師に「B剤後の2次治療として有効性を認めるデータは他の薬剤でもないため、本剤を使用しても特に問題がない」と口頭説明した。
どこが逸脱か:「他剤にもデータがない」ことを根拠に、エビデンスなき適応外使用を正当化した。
原文:「本剤を使用しても特に問題がない」
媒体/製品領域:鎮痛剤/口頭(薬剤部説明会)
何をしたか:「適応外ではありますが」「海外のガイドラインでは」と前置きした上で、求められていないのに「モルヒネ同様に、呼吸困難症例や咳嗽症例への効果が期待できる」「腎機能低下の呼吸困難患者では第一選択薬になりうる」と国内未承認適応を紹介した。
どこが逸脱か:前置きに関わらず、求めなく未承認適応を積極的に紹介・推奨した。
原文:「モルヒネ同様に、呼吸困難症例や咳嗽症例への効果が期待できる」
媒体/製品領域:慢性便秘症治療薬/口頭(診療科説明)
何をしたか:企業担当者が診療科の医師に「大腸刺激性以外の下剤と比較して本剤は作用発現までの時間が最も短い」と説明し、頓用使用の推奨につながった。その結果、当該診療科では適応外にもかかわらず消化器系処置の前処置薬としてクリニカルパスに採用されてしまった。
どこが逸脱か:特性説明が適応外の頓用処方を組織的に定着させる結果を招いた。
原文:(作用発現時間の最短性を強調する説明がクリニカルパス採用につながった)
媒体/製品領域:抗菌薬/Webセミナー
何をしたか:「他剤は糖尿病性足病変患者における創部への移行性が悪い」「本剤は血中濃度と同等の組織移行性がある」とデータを提示し「糖尿病性足病変にも効果が期待できる」と解説した。しかし、本剤の臨床試験では糖尿病性足病変患者は除外されており、有効性の評価は不明瞭だった。
どこが逸脱か:除外患者集団のデータを根拠に承認外の適応への効果をほのめかした。
原文:「糖尿病性足病変にも効果が期待できる」
媒体/製品領域:抗精神病薬/口頭(院内勉強会直前)
何をしたか:「他の病院で使用数が伸びているか」との質問に対し、「疾患A(適応症)というよりは疾患B・疾患C(適応外)の患者で、経口摂取困難な患者によく使用されている」と適応外疾患への投与が一般的であるかのような説明を行った。
どこが逸脱か:質問の範囲を逸脱し、承認外疾患への投与が通常であるかのような印象を与えた。
原文:「疾患Bや疾患C(添付文書上の適応症ではない疾患)の患者さんで、よく使用されている」
媒体/製品領域:抗がん剤/口頭
何をしたか:薬剤師側から依頼したわけではなく、企業側からアポイントがあり対応した。薬事承認の1日前にもかかわらず、抗がん剤AとBの承認前併用療法について情報提供を行った。
どこが逸脱か:薬事承認前に、求めなく、企業側から能動的に承認前情報を提供した。
原文:(薬事承認の1日前に承認前の併用療法について情報提供が行われた)
媒体/製品領域:認知症治療薬/口頭
何をしたか:「今度、〇〇月に後発品が出ますよね」と企業担当者が話しかけ、薬剤師が「いろいろあるのでよくわからない」と返すと、本剤の名前を引き出した後「承認前はメーカーから言い出せない」と言いながら承認前製品のプロモーションを行った。薬剤師としては自発的に問い合わせたつもりはなく、企業側に誘導された形だった。
どこが逸脱か:医療関係者が求めたように装い、承認前製品の情報提供を能動的に行った。
原文:「承認前はメーカーから言い出せない」(と言いながらプロモーションを行った)
媒体/製品領域:腎性貧血治療薬/口頭(医師向け説明)
何をしたか:後発医薬品への切り替え時の医師向け説明において、後発品の薬価収載のみを説明し、先発品と後発品の適応症の違いについて全く言及しなかった。
どこが逸脱か:適応症の差異という重要な承認情報を伝えず、誤った使用を招く可能性がある。
原文:(先発医薬品と後発医薬品との間の適応症の違いについて全く説明を行わなかった)
媒体/製品領域:組織接着剤/製薬企業・医療材料企業合同説明会
何をしたか:製薬企業と医療材料企業の合同説明会で、医療材料企業の担当者が舌癌切除手術後における組織接着剤の適応外使用について写真入り講演資料を使い詳細に説明した。製薬企業側はこの説明内容を否定しなかった。
どこが逸脱か:合同説明会という場を通じて適応外使用を事実上容認・共同で推奨した。
原文:(縫合により組織閉鎖が可能な舌癌切除後の適応外使用を詳細に説明し、製薬企業も否定等をしなかった)
令和3年度(2021年)── 4件
媒体/製品領域:抗精神病薬/オンライン面談
何をしたか:注射剤において適応追加が承認されたが内用薬では追加されていない疾患について、「注射剤にある適応が内用薬でも認められる」旨を口頭で説明した。
どこが逸脱か:内用薬と注射剤の承認内容を混同させ、内用薬の承認外使用を推奨した。
原文:「本剤の注射剤にある適応について、内用薬でも適応が認められる旨、口頭で説明を受けた」
媒体/製品領域:抗インフルエンザ薬/医薬品卸の営業担当者による説明
何をしたか:「適応拡大について承認がなされる見込みだが、本剤の在庫は置かなくてよいか?」と未承認の効能効果に言及しながら在庫確保を促した。
どこが逸脱か:承認されていない適応拡大の見込みを在庫購入促進に活用した。承認前情報を使った販売促進行為。
原文:「適応拡大について承認がなされる見込みだが、本剤の在庫は置かなくてよいか?」
媒体/製品領域:アルコール依存症治療薬/口頭(企業情報提供窓口)
何をしたか:添付文書が処方条件として医師・看護師等の研修受講を求めているにもかかわらず、「医師さえ研修を受けていれば他の職種が研修を受けていなくても処方している例はある」と条件の遵守を不要とするかのような説明をした。
どこが逸脱か:添付文書に明記された処方条件を守らなくてよいと示唆し、リスク管理の骨抜きを容認した。
原文:「医師さえ研修を受けていれば他の職種が研修を受けていなくても処方している例はある」
媒体/製品領域:不眠症治療薬/口頭
何をしたか:承認後1年以内で長期処方が認められていない薬剤について、「半分の量を2錠14日分処方することで、実質的に28日分の処方ができる」と、処方日数制限を潜脱する処方法を提案した。
どこが逸脱か:規制の意図(新薬の使用実態を短期間で確認するための長期処方制限)を巧みに回避する処方操作を積極的に勧奨した。
原文:「半分の量を2錠14日分処方することで、実質的に28日分の処方ができる」
原典では⑧-1(その他)に分類されるが、承認用法を逸脱する処方操作(長期処方制限の潜脱)という観点から本稿に収録した。
令和4年度(2022年)── 3件
媒体/製品領域:SGLT2阻害剤/対面
何をしたか:医療関係者からの求めがないのに、「HFpEF(左室駆出率が保持された心不全)には適応はないが有効性が論文で報告されている。本剤に慢性腎臓病の適応が追加されたため、HFpEF患者に慢性腎臓病の病名をつけて処方がしやすくなったと医師が言っている」と発言した。なお、引用した論文は他社製品のデータだった。
どこが逸脱か:承認外疾患への「病名操作」による処方を推奨。適応外使用を保険請求上問題ない形で実現させる指示だった。
原文:「慢性腎臓病の病名をつけて処方がしやすくなったと医師が言っている」
媒体/製品領域:不眠症薬(割線なし)/電話
何をしたか:医師から「半分の量で投与できたらもっと使いやすい」と言われた際、担当者が「同剤は半錠できる」と医師に説明し、さらに薬剤部に電話で「薬剤部の方たちは本剤が半錠にできることをご存じないようなので」と伝えた。本剤に割線はなく、企業コールセンターに確認したところ「半錠に関するデータはない」と回答。同社のホームページにも「半割投与はおすすめしていません」と記載されていた。
どこが逸脱か:割線のない製剤について、自社の公式情報とも矛盾するデータなきまま「半錠できる」と複数部署に積極的に伝えた。用法逸脱の積極的な拡散行為。
原文:「半錠に関するデータはない」(コールセンター確認結果)
原典では③-5(エビデンスのない説明)に分類されるが、添付文書に記載のない半錠投与を推奨した行為として用法用量の逸脱に当たる観点から本稿に収録した。
媒体/製品領域:麻酔薬/対面
何をしたか:こちらから質問したわけでもないのに、「実際使用されている医療機関においては、1mg/kg/時ではなく、0.6mg/kg/時や0.3mg/kg/時で投与されている」と添付文書にない用法用量を紹介した。裏付け論文の提出を求めると「発売後まもない新薬なので論文や学会発表はなく、今後公表されるだろう」との回答だった。
どこが逸脱か:添付文書に記載のない低用量投与を求めなく推奨し、エビデンスを求められても存在しないことを認めた。
原文:「0.6mg/kg/時や0.3mg/kg/時で投与されている」
原典では③-10(エビデンスのない用法用量)に分類されるが、添付文書に記載のない用法用量の使用事例を推奨した観点から本稿に収録した。
令和5年度(2023年)── 1件
媒体/製品領域:モノクローナル抗体製剤/対面
何をしたか:本剤の承認適応は「***に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)」であるにもかかわらず、「かゆみの後に生じる皮疹にも効果が認められている」と説明した。その根拠として示されたのは、国内第3相試験の副次評価項目(EASI改善)だった。
どこが逸脱か:承認適応外の皮疹への有効性を、副次評価項目のデータを使って説明し、適応外使用を推奨する結果となった。
原文:「かゆみの後に生じる皮疹にも効果が認められている」
令和6年度(2024年)── 2件
媒体/製品領域:皮膚炎治療剤(アトピー性皮膚炎承認)/対面(薬剤部ヒアリング)
何をしたか:薬剤部ヒアリングで「本剤は透析患者の掻痒に使用されている」と説明した。承認適応を確認しデータを求めると「データはない」と回答した。
どこが逸脱か:承認外(透析患者の掻痒)への使用事例を事実であるかのように伝え、適応外使用を推奨する可能性のある説明を行った。
原文:「適応外の使用を推奨する誤認の可能性がある説明であった」(報告書評価)
媒体/製品領域:糖尿病治療薬/対面
何をしたか:規格が多い理由を問われたMRが「抗肥満を想定している」「海外では抗肥満に多い規格が使われている」と回答し、さらに質問もないのに「日本では適応外だが抗肥満に対する効能効果については申請中である」と説明した。
どこが逸脱か:医療関係者から求められていないにもかかわらず、申請中の未承認効能について積極的に言及した。
原文:「抗肥満に対する効能効果については申請中である旨の説明もあった」
原典では⑥-2(有効性のみを強調した事例)に分類されるが、未承認の効能効果(抗肥満)への言及および申請中情報の求めなき提供を含む観点から本稿に収録した。
令和7年度(2025年)── 2件
媒体/製品領域:抗悪性腫瘍剤/対面(院内製品説明)
何をしたか:MRと学術担当者が来院。学術担当者が「現在の適応は**がんのみだが、標的蛋白質はほぼ全固形がんに発現している。すべてのがん種に使えるようになる。A剤と本剤とも適応拡大の予定で、今後どちらでも使用可能」と希望的観測を述べた。
どこが逸脱か:医療従事者からの求めなく、承認されていない多数のがん種への適応拡大予定を積極的に情報提供した。
原文:「医療従事者からの求めがないにもかかわらず、未承認の効能効果について言及した」(報告書評価)
媒体/製品領域:アレルギー用薬(注射剤)/製薬企業主催講演会スライド
何をしたか:製薬企業主催の講演会で、演者の医師が承認された用法用量と異なる短時間投与法・少量長期投与を繰り返し紹介した。さらにエビデンスなく「A剤とB剤は全く同じだから切り替えても安全」と説明し、他社B剤からの切り替え例を提示。最終スライドには「A剤は安全・簡単・患者メリット大」と記載した。演者作成の資料は販売情報提供活動監督部門による事前審査を経ないまま希望受講者に配信され、事後の是正活動も不十分だった。
どこが逸脱か:承認外の用法用量推奨、根拠なき同等性主張(他剤誹謗)、安全性情報の欠如、資材の事前審査未実施という複数のガイドライン違反が重なった最重大事例。
原文:「演者作成の資料を、販売情報提供活動監督部門による事前の審査を経ないまま、希望する受講者に対して配信した」
まず過去のインシデントから学ぶ ── 全 9 章の地図
- 第1回: 事実誤認のおそれのあるデータ使用・加工
- 第2回: データ・グラフの恣意的な抜粋/加工/見せ方
- 第3回: エビデンスのない説明・信頼性に欠ける情報
- 第4回 (本章): 未承認の効能効果・用法用量の提示
- 第5回: 誇大な表現
- 第6回: 有効性のみの強調・安全性情報の軽視
- 第7回: 他社製品の誹謗・中傷
- 第8回: 利益相反(COI)の不開示
- 第9回: その他の不適切な営業手法
- 「適応外ではありますが」は免責にならない。 前置きの後に未承認情報を提供する行為は、前置きがない場合と同様にガイドライン違反となる。求めがない限り提供しないことが原則だ。
- 保険査定を受けないことと医学的な安全性は別物だ。 「査定されない用法」「保険の病名操作で処方できる」という説明は、安全管理の根拠そのものを破壊する行為であり、単なる手続き論ではなく患者リスクに直結する。
- 割線のない半錠、添付文書にない低用量、処方条件の省略。 これらは小さな逸脱に見えるが、製造販売後の安全監視の網の外に患者を置く。自社の公式情報と矛盾する説明をMRが積極的に拡散した例も報告されている。
- 医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン(厚生労働省、2019年9月25日付け薬生監麻発0925第1号)
- 医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業 報告書 平成31年度(厚生労働省委託事業)
- 医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業 報告書 令和2年度(厚生労働省委託事業)
- 医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業 報告書 令和3年度(厚生労働省委託事業)
- 医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業 報告書 令和4年度(厚生労働省委託事業)
- 医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業 報告書 令和5年度(厚生労働省委託事業)
- 医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業 報告書 令和6年度(厚生労働省委託事業)
- 医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業 報告書 令和7年度(厚生労働省委託事業)
- 医薬品医療機器等法(薬機法)第66条(誇大広告等の禁止)・第68条(承認前医薬品等の広告禁止)
- 医療用医薬品の広告活動監視モニター事業 報告書(厚生労働省)
- 医療用医薬品製品情報概要等に関する作成要領(日本製薬工業協会)