医薬品の説明で最も記録されてきた逸脱が、有効性は詳しく語るが安全性は省く、という情報の偏りだ。MRが説明会で「効果がある」「他剤より優れている」と滔々と語る一方で、RMPに重要リスクとして指定された副作用、禁忌、日本人集団でのネガティブデータには一切触れない。安全性情報が提供されても添付文書を10秒投影するだけ、という事例も確認された。平成31年から令和7年までの7年間で、この類型は毎年ほぼ途切れなく記録されている。
So what / So why ── このカテゴリの本質
So what(要するに何が問題か) 製品説明の時間のほとんどを有効性データに充て、副作用・禁忌・RMPの重要リスクについては触れないか、最後に一瞬映すだけで終わる。これが「有効性のみの強調・安全性情報の軽視」と呼ばれる逸脱の実態だ。試験で有意差が出た評価項目だけを説明し、有意差が出なかった国内試験を「意図的に」省く事例も記録されている。
So why(なぜ医療者・患者にとって致命的か) 医師が処方を決めるとき、リスクとベネフィットを自分で判断できなければならない。しかし情報源が企業担当者とその資材に偏っている現場では、安全性情報が渡ってこなければ、医師はリスクの存在を知らないまま処方する。RMPに「重要な潜在的リスク」として列挙されているのに、担当者が触れもしなかった副作用で患者が被害を受けたとき、誰も「知らなかった」では済まない。
販売情報提供活動ガイドラインは「有効性及び安全性のいずれについても、科学的根拠に基づく正確な情報を提供する」と定め、ネガティブな情報も含めて提供することを義務づけている。安全性情報を省く行為は、この原則を根底から損なう。
さらに深刻なのは、この類型が構造的に繰り返されている点だ。同じ企業の担当者が複数の医療機関で同一の偏った説明をしていたことが確認された事例もある。個人の判断ではなく、組織として「ネガティブ情報は出さない」という方針が動いていることを示している。
What / Where / Why / How ── ガイドラインの何に逸脱したか
What(具体的に何をする逸脱か)
- 副作用を「一過性」「大きな影響はない」と矮小化して伝える
- RMPに重要なリスクとして指定されている副作用に一切言及しない
- 有意差が確認できた試験結果だけを選び、有意差のなかった国内第三相試験を省く
- 禁忌患者への説明なしに「さまざまな背景の患者に一貫した治癒が期待できる」と記述する
- 安全性評価が主目的の臨床試験で、パンフレット冒頭に副次評価項目(有効性)の結果を配置する
- 安全性情報として提供すべき内容(脂質への影響、体重減少リスク)を有効性の観点から説明する
- 添付文書の投影を「最後に10秒」だけ行い、安全性情報の提供とみなす
Where(どの媒体・場面で起きるか) MRによる対面説明・オンライン面談が最多。次いで医療関係者向け情報サイトのWebセミナー・座談会記事、パンフレット、電子メールDM。複数媒体をまたいで同じ内容の逸脱が確認されたケースもある(パンフレット、医療者向けWebサイトPDF、インタビューフォームが同一の誤った記述順)。
Why(なぜ作り手がやってしまうか) ①採用率・処方率への短期プレッシャー。安全性情報を強調すると医師が処方をためらうという恐れ。②ネガティブ情報の「自発的選別」。「これは言わなくても添付文書に書いてある」という正当化。③KPIが有効性訴求に最適化されており、安全性情報の伝達精度を評価する仕組みがない。④講演スポンサーがセミナー演者の説明内容を事前にチェックしていない(スポンサー企業は関係する講演資料の内容を確認する責任がある)。
How(どのガイドライン・法規に違反するか) 医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン(2018年)は「有効性及び安全性に関する事実に基づく正確な情報を提供する」「ネガティブな情報についても提供する」と定める。薬機法第66条(誇大広告等の禁止)は、「医薬品の効能・効果等について、明示的・暗示的を問わず、虚偽または誇大な記事の広告・記述・流布を禁じる」。安全性情報の意図的な不提供は、ベネフィットのみを伝えることで処方を誘引する点でこの趣旨に抵触する。製薬協プロモーションコードも「副作用を含む安全性に関する情報をバランスよく提供する」を義務として明記している。医薬品の適正広告基準(厚生労働省)もベネフィットと安全性情報のバランスを求めている。
事例 ── あますことなく
平成31年度
媒体・製品領域: 医療関係者向け情報サイト上の製品紹介動画 / 鎮痛薬
何をしたか: 高用量使用に伴う副作用(肝障害、ALT上昇)について「一過性で慣れがある」と説明。さらに、エビデンスが十分でない別の新規バイオマーカーとの相関がなかったことを根拠に「ALTの上昇は副作用を直接反映するものではない」と結論付けた。
どこが逸脱か: 原著論文ではALT上昇が著しく脱落した例が複数あり、「一過性」とは言い難い。添付文書にも高用量使用に対する警告が記載されていた。十分に注意すべき副作用を矮小化した安全性の軽視。
原文引用:「ALT の上昇は副作用を直接反映するものではない」「一過性で慣れがある」
媒体・製品領域: 企業担当者による口頭説明 / 抗がん剤
何をしたか: 製品説明時に2度にわたり、有効性に関する説明のみを行い、安全性に関する情報提供を行わなかった。最適使用推進ガイドラインが発出されている、適正使用が特に求められる薬剤だった。
どこが逸脱か: 1度ならず2度繰り返した安全性情報の不提供。製品の特性上、安全性情報提供の重要性がとくに高い。
原文引用:(報告書)「製品説明時に 2 度にわたり、企業担当者が有効性に関する説明のみを行い、安全性に関する情報提供を行わなかった」
媒体・製品領域: 医療関係者向け情報サイト上の座談会記事 / 糖尿病治療薬(配合剤)
何をしたか: 配合剤の特徴として「腎機能の程度によらずHbA1c低下作用があること」のみを記載。腎機能障害患者への注意喚起(添付文書)、RMPの重要リスク「多尿・頻尿」については「服用後数日で症状が軽減されるため、飲水指導は投与後1週間で問題ない」と記述し安全性を軽視した。
どこが逸脱か: 添付文書・RMPに明記された重要事項を軽視し、情報提供を怠った。
原文引用:「RMP において重要なリスクとされている多尿・頻尿について、『服用後数日で症状が軽減されるため、飲水指導は投与後 1 週間で問題ない』という趣旨の記載があり、安全性を軽視した記事と思われた」
媒体・製品領域: 企業担当者による口頭説明 / 緑内障・高眼圧症治療薬
何をしたか: 新薬の14日処方制限を告げられた医師に対し、「1本処方すれば1か月は使用できるので、1か月ごとの来院間隔でも可能」と説明した。
どこが逸脱か: 新薬の処方日数制限に反する使用方法を勧奨した。
原文引用:「1 本処方すれば 1 か月は使用できるので、1 か月ごとの来院間隔でも可能である」
媒体・製品領域: 企業担当者による口頭説明 / 慢性便秘症治療薬
何をしたか: 企業主催の勉強会で新薬の処方日数制限を問われ、「投与量を増量できるため適宜調節すれば長期投与も可能」と説明。さらに「小児領域で副作用が少ない有用な薬剤であり、医師に勧めてほしい」と発言したが、「他の便秘症治療薬で効果不十分な場合に限る」という留意事項の説明がなかった。
どこが逸脱か: 処方日数制限に反する勧奨に加え、使用制限(二次選択)に関する情報を省いた安全性・適正使用情報の偏り。
原文引用:「小児領域で副作用が少ない有用な薬剤であり、医師に勧めてほしい」(使用制限の説明なし)
令和2年度
媒体・製品領域: プレゼンテーション用スライド・企業担当者による口頭説明 / COPD治療薬
何をしたか: スライドに「喘息合併のCOPDは基本的に全例が本薬の対象」と記載。一部患者には副作用(肺炎リスク増加)から使用を推奨しないケースがあるにもかかわらず、口頭説明で副作用の説明は一切なかった。
どこが逸脱か: 副作用に関して説明せず、有効性のみを強調した情報提供。
原文引用:(報告書)「MR による口頭説明では、そのような副作用の説明は一切なかった」
媒体・製品領域: 医療関係者向け情報サイト上のWebセミナー / 慢性便秘症治療薬
何をしたか: Webセミナーで「高齢者においても自発排便回数の変化量は改善することが示された」「高齢者の治療にもお役立てください」と有効性のみを強調。審査報告書・添付文書・インタビューフォームには「高齢者への投与は安全性情報が十分でなく、副作用の発現に留意した十分な観察が必要」と記載されているにもかかわらず、その情報提供がなかった。
どこが逸脱か: 高齢者への安全性情報が不十分なまま、有効性のみを強調した情報提供。
原文引用:「高齢者の治療にもお役立てください」(安全性に関する情報提供が不十分なまま)
媒体・製品領域: 企業担当者による口頭説明 / 腎性貧血治療薬
何をしたか: 添付文書・RMPに記載のある悪性腫瘍リスクについて質問した際、競合他社製品の名前を挙げ「競合製品のRMPにも同様のリスクの記載があるので、自社製品のRMPの記載についても大きな影響はない」と回答した。
どこが逸脱か: 他剤を引き合いに出してリスクを相対化し、本剤のリスクがマイナスポイントにならないかのような安全性を軽視した説明。
原文引用:「競合製品の RMP にも同様に悪性腫瘍に関するリスクの記載があるので自社製品の RMP の記載についても大きな影響はない」
媒体・製品領域: 企業サイト上のWebセミナー(視聴時間20分) / 抗アレルギー薬
何をしたか: Webセミナーを通じて適応患者やインタビューフォームに記載の重要な基本的注意事項への言及がなかった。禁忌や慎重投与等の安全性情報の提供は、最後のスライドで添付文書を10秒ほど投影する形でしか行われなかった。
どこが逸脱か: 有効性に偏った情報提供。安全性情報が最後の10秒投影のみで、実質的に機能しない。
原文引用:「禁忌や慎重投与等、安全性に関する情報提供は最後のスライドで添付文書を 10 秒ほど投影する形でしか行われていなかった」
媒体・製品領域: 企業担当者による提供資料 / パーキンソン病治療薬
何をしたか: 製品説明会でRMP(適正使用ガイド・患者向医薬品ガイド)の資料を配布したが、RMPのリスク最小化計画に定められた適正使用ガイド等の資材についての説明がなく、安全性に関する説明が不足した。
どこが逸脱か: RMPのリスク最小化計画が実施されず、安全性に関する説明が不足した情報提供。
原文引用:「RMP のリスク最小化計画に定められた、適正使用ガイド等の資材に関する説明がなく、安全性に関する説明が不足した情報提供であった」
媒体・製品領域: 企業担当者による提供資料 / 慢性心不全治療薬
何をしたか: 製品説明会でリスクベネフィット判断に必要な適応患者・潜在リスクの説明が不足。RMPのリスク最小化計画に定められた内容の実施も不十分だった。
どこが逸脱か: RMPに基づいた情報提供および適応患者に関する説明が不足し、安全性について必要な説明がなされなかった。
原文引用:「リスクベネフィットを判断するための患者の適応や潜在リスクに関する説明が不足していた」
令和3年度
媒体・製品領域: オンライン面談(企業担当者による説明) / 腎性貧血治療薬
何をしたか: 他剤と安全性を比較したデータがないにもかかわらず、「国内臨床試験にて副作用が認められていないため、他剤と比べて安全な薬剤である」と説明した。
どこが逸脱か: 比較データなく副作用が認められなかった事実のみを強調し、他剤より安全であると根拠なく主張。
原文引用:「国内臨床試験にて副作用が認められていないため、他剤と比べて安全な薬剤である」
媒体・製品領域: オンライン面談(企業担当者による説明) / 腎性貧血治療薬
何をしたか: B剤に関する定量的なデータはないまま、「薬理作用の違いのみによってB剤との比較をした説明」を行い、本剤がB剤よりHb上昇が緩やかで優れていると説明した。
どこが逸脱か: 試験結果に基づく定量的差異を示すデータなく、薬理作用のみを根拠に優位性を主張。
原文引用:「薬理作用の違いのみによってB剤との比較をした説明を行った」
媒体・製品領域: 対面での企業担当者による資料提供 / DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)治療薬
何をしたか: 臨床試験において有害事象が認められなかったことのみを理由に「安全性が高い薬剤である」という説明を行った。
どこが逸脱か: 限定的な事実(臨床試験での有害事象なし)のみを根拠に安全性が高いと断言。臨床試験の規模・期間の限界を無視した説明。
原文引用:「臨床試験において有害事象が認められなかったことのみを理由に、安全性が高い薬剤であるという説明が行われた」
媒体・製品領域: オンライン面談(企業担当者による説明) / 眼科用VEGF阻害剤
何をしたか: 主要評価項目についてはスライド資料も準備せず、有意差が認められた副次評価項目のみについて説明した。口頭でも主要評価項目への言及はなかった。
どこが逸脱か: 有効性の主要評価項目より有意差が出た副次項目を選んで説明し、主評価項目を意図的に省いた恣意的な情報選択。
原文引用:「有意差が認められた副次評価項目のみについて説明を受けた」「主要評価項目については必要な説明は行われなかった」
令和4年度
媒体・製品領域: オンライン説明会(企業担当者) / 心不全治療薬
何をしたか: 主要評価項目で有意差が示された海外第三相試験結果のみを説明し、有意差を示せなかった国内第三相試験結果については全く説明しなかった。この説明が複数施設で同様に確認された。
どこが逸脱か: 都合のよい海外試験結果のみを選んで説明し、承認審査で重要な評価資料だった国内試験(有意差なし)を意図的に省略。複数施設で同一の偏り確認は組織的な情報選別を示す。
原文引用:「有意差を示せなかった国内第三相試験結果については全く説明をしなかった」「本事例については複数施設で同様のことが確認された」
媒体・製品領域: スポンサー企業が開催するオンラインセミナーの動画コンテンツ / 血圧降下剤
何をしたか: 演者が審査報告書や原著論文では議論されていない当該薬剤のサブグループ解析結果を示し、特定の症候を有する患者への有効性を強調した。スポンサー企業によるチェックが行われていなかった。
どこが逸脱か: 承認審査で検討されていないサブグループ解析結果を根拠にした有効性の強調。臨床試験で有用性が検証されたとの誤解を招く。
原文引用:「審査報告書や原著論文では議論されていない当該薬剤のサブグループ解析結果を示しながら、その症候を有する患者に対して当該薬剤が有効であることを強調した」
媒体・製品領域: 製品パンフレット(全国医療機関に郵送・Webにも同内容掲載) / 糖尿病治療薬
何をしたか: 「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」で主要評価項目が安全性とされる併用療法長期投与試験の結果を、パンフレット冒頭に副次評価項目(有効性)の結果から表示し、有効性を強調した。同内容がWebサイトのPDF・動画、インタビューフォームにも掲載されていた。
どこが逸脱か: 安全性評価が主目的の試験結果の記述順を入れ替え、有効性を前面に出した。試験設計・例数設定いずれも安全性評価に基づくもので、有効性の優位性を示すデータとして使うことは不適切。
原文引用:「冒頭に国内第三相試験に併用療法長期投与試験の副次評価項目(有効性)に関する結果を示し」「有効性を強調している」
令和5年度
媒体・製品領域: オンライン(企業ヒアリング、薬事委員会向け) / 循環器官用薬
何をしたか: 本剤は電子添文に「日本人では腎不全への進展抑制効果が弱い可能性がある」と記載されているにもかかわらず、薬事委員会のための企業ヒアリングでこの点に触れなかった。質問されて初めて、最初の説明スライドとは別のスライドで日本人部分集団データを示した。審査報告書では日本人集団での優越性が示せなかったと記載されている。
どこが逸脱か: 十分な説明時間があったにもかかわらず、ネガティブな情報を敢えて提供しなかったことが疑われる偏った情報提供。
原文引用:「日本人では腎不全への進展抑制効果が弱い可能性がある」(電子添文記載)「十分な説明時間を病院側が確保したにもかかわらず、ネガティブな情報提供を敢えて行わなかったことが疑われる情報提供であった」
媒体・製品領域: オンライン(病院薬剤部向け説明会) / 糖尿病治療薬
何をしたか: 動物試験で本剤群のみのグラフを映写しながら「同時に実施されている他剤群では濃度依存的な乳酸値の増加が確認されており、このことからも本剤は乳酸アシドーシスのリスクが少ないことが期待されます」と説明。他剤のグラフは映写しないまま、リスク低下のみをアピールした。乳酸アシドーシスはRMPの「重要な潜在的リスク」として指定されている。
どこが逸脱か: RMP重要潜在的リスクに該当するにもかかわらず、リスクが少ないことのみを強調し、安全性情報を合わせて提供しなかった。
原文引用:「本剤は乳酸アシドーシスのリスクが少ないことが期待されます」(RMPの重要な潜在的リスクとして指定されているにもかかわらず)
媒体・製品領域: 直接対面(企業担当者による説明) / 先天性代謝異常症治療薬
何をしたか: 使用上の注意改訂について「投与速度は0.5mg/分を超えないこと、という記載が削除され、投与速度の上限がなくなった」とのみ説明した。しかし、同時に提示された海外臨床試験では上限1.5時間が設定されており、用法用量関連注意には初回投与速度は0.25mg/分以下とし徐々に速めてよいという記述があった。
どこが逸脱か: 「上限がなくなった」という説明だけでは誤解を与えかねず、周辺の安全性情報を合わせて提供しなかった不十分な情報提供。
原文引用:「この部分が削除され、投与速度の上限がなくなった」(海外臨床試験の上限設定・用法用量関連注意への言及なし)
令和6年度
媒体・製品領域: 直接対面(企業担当者による説明) / 高カリウム血症改善剤
何をしたか: 医師に対して「(他社製品である)***剤よりもカリウム値が下がる」と有効性を説明したが、本剤は安全性上カリウム値のモニタリングが必要であるにもかかわらずその点を説明しなかった。
どこが逸脱か: 有効性情報だけでは安全性情報の提供として不十分。安全性を軽視した情報提供。
原文引用:「その点を説明しなかった。安全性を軽視した情報提供といえる。」
媒体・製品領域: 直接対面(企業担当者による説明) / 糖尿病治療薬
何をしたか: 規格が多い理由を問われ「抗肥満で使用されることを想定している。海外では抗肥満に対して投与量の多い規格が使われている」と回答。さらに質問されていないのに、日本では適応外の抗肥満効能について「申請中」と説明した。本剤では「体重減少に関連する安全性」がRMPの重要な潜在的リスクとして設定されている。
どこが逸脱か: 安全性情報として提供すべき内容(体重減少リスク)を有効性の観点から説明し、適応外使用を示唆した。
原文引用:「抗肥満に対する効能効果については申請中である旨の説明もあった」(体重減少はRMPの重要な潜在的リスク)
媒体・製品領域: 直接対面(企業担当者による説明) / 糖尿病治療薬
何をしたか: 「参考情報」「有効性評価項目」と記載のスライドを示しながら「糖尿病だけではなく、脂質系に関しても本剤は効果がある」と説明した。審査報告書では、脂質への影響は心血管イベントリスクに紐づく安全性情報として評価されており、有効性としてではなく安全性の項目として評価されている。
どこが逸脱か: 安全性情報を有効性情報として説明したことで、医療者に誤解を与えた。承認された内容を逸脱する説明でもある。
原文引用:「有効性としてではなく安全性の項目として評価されている旨の記載となっていた」
媒体・製品領域: 電子メールDM(一斉配信) / 抗ウイルス剤
何をしたか: 日本肝臓学会のC型肝炎治療ガイドラインから薬物相互作用表を引用する際、自社品の相互作用の大半を掲載せず他社品の相互作用を抜粋掲載した。また電子添文の禁忌(eGFR30未満患者)に言及せず「さまざまな背景がある患者に対して、一貫した治癒が期待できる薬剤」と記述した。
どこが逸脱か: あたかも自社品は相互作用が少なく使いやすいとの誤認を与え、禁忌情報を含む安全性情報を軽視した情報提供。
原文引用:「あたかも自社品は薬物相互作用が少なく使いやすいが、他社品は薬物相互作用が多く、使いにくいという誤認を与える内容が含まれていた」
令和7年度
媒体・製品領域: 直接対面(製品説明会、薬剤科内) / 循環器官用薬
何をしたか: 薬剤科内の製品説明会(対面、約20分)で「2つの国際共同臨床試験において、それぞれ心血管複合エンドポイント、および腎複合エンドポイントの有意なリスク低下が確認されています」などの説明のみで説明時間を終了した。本剤は日本人部分集団において腎不全イベントのハザード比が1を上回り、当初薬事承認が見送られた経緯がある。添付文書への注意喚起を条件に承認された薬剤だが、この経緯については全く言及がなかった。
どこが逸脱か: 十分な時間があったにもかかわらず、有用性のみを説明し安全性のリスクに関する情報を説明しない偏った情報提供。
原文引用:「有用性のみを説明し、安全性のリスクに関する情報について説明しないことは偏った情報提供である。」
媒体・製品領域: 直接対面(企業担当者による説明) / 代謝性医薬品(小児用)
何をしたか: 小児患者への投与量制限緩和(30mgまで投与可能になった)という情報を提供したが、提供内容は「30mgまで投与できるようになった」の一点のみで、背景・根拠データ・安全性情報は一切なかった。根拠データを求めると「すぐには回答できない」と返答。2週間後に付箋を貼ったインタビューフォームの提供のみで対応した。なお添付文書の副作用欄も改訂されていた。
どこが逸脱か: 投与量制限緩和という処方に影響する変更情報を伝える際に、安全性情報をセットで提供しなかった偏った情報提供。添付文書の副作用改訂という同時期の変更事項も未伝達だった。
原文引用:「投与量が 30mg に増量できることのみを伝え、安全性に関する情報を伝えないプロモーションであった」
まず過去のインシデントから学ぶ ── 全 9 章の地図
- 第1回: 事実誤認のおそれのあるデータ使用・加工
- 第2回: データ・グラフの恣意的な抜粋/加工/見せ方
- 第3回: エビデンスのない説明・信頼性に欠ける情報
- 第4回: 未承認の効能効果・用法用量の提示
- 第5回: 誇大な表現
- 第6回 (本章): 有効性のみの強調・安全性情報の軽視
- 第7回: 他社製品の誹謗・中傷
- 第8回: 利益相反(COI)の不開示
- 第9回: その他の不適切な営業手法
- 安全性情報は「最後10秒」では機能しない。 有効性と同等の時間と説明を安全性情報に割かなければ、医師は「この薬は安全」という印象だけを持ち帰る。令和2年度の抗アレルギー薬の事例では、20分のWebセミナーで禁忌・慎重投与の情報提供が最後の添付文書10秒投影のみだった。
- RMP重要リスクは名前を挙げて口頭で伝える。 「乳酸アシドーシス」「多尿・頻尿」「体重減少」「悪性腫瘍リスク」等の具体的リスク名を言葉にしない情報提供は、ガイドラインが求める適正情報提供の水準を満たさない。RMPに書いてあるだけでは医師には届かない。
- ネガティブデータを省くと複数施設で同一違反が生じる。 令和4年度の心不全治療薬の事例では、有意差が出なかった国内第三相試験を説明しないという偏りが複数の医療機関で同時に確認された。個人の判断ではなく組織として情報を選別していた可能性を示している。
- 厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」(2018年9月25日)
- 厚生労働省 販売情報提供活動監視事業報告書(平成31年度〜令和7年度)
- 薬機法第66条(誇大広告等の禁止)
- 医薬品等適正広告基準(厚生労働省)
- 日本製薬工業協会「医療用医薬品プロモーションコード」