守りを一カ所に集めると、その一カ所が抜けた瞬間に終わる。だから現場、管理機能、内部監査の三段で構える。2020 年に改訂された Three Lines Model は、この構えを「防衛線」という静的な比喩から、役割どうしの協働へと描き直した。資材審査がこの三つのどこに座るのか。そこで審査の意味そのものが変わる。

01なぜ守りを重ねるのか

不正やミスは、どこかで必ず起きます。問題は、起きたときに止められる構えがあるかどうかです。守りを一本の線に集中させれば、その線が抜けた瞬間に統制全体が崩れる。

so why ── 役割を分けて重ねるのは、独立性と相互牽制でフェイルセーフを作るためです。第一線が見落としても第二線が拾い、第二線が緩めば第三線が検証する。重要なのは、助言する者と保証する者を分けておくこと。第二線の助言と第三線の保証が同じ手に握られれば、自分の助言を自分で「問題なし」と評価する構図になり、牽制は消えます。だから線は数ではなく、独立性で意味を持ちます。

02三つの線 ── 誰が何を担うか

三線ディフェンスは、守りの役割を三つに分けます。それぞれが何を担うかを取り違えると、線が混ざって牽制が効かなくなる。

第一線

現場 ── リスクを取り、自ら統制する

営業・マーケティングなど、事業の最前線。リスクを取りに行く当事者であり、同時に自らの業務の中で一次的な統制を担う。資材を作るのもここ。

第二線

管理・コンプラ ── 基準を作り、監視する

リスク管理・コンプライアンスの専門機能。第一線から独立して基準を作り、逸脱を監視する。資材審査が典型的に座る位置。

第三線

内部監査 ── 独立して検証する

第一線・第二線から独立し、統制が現に機能しているかを検証する。第二線の有効性そのものも検証の対象に入る。

so what ── 審査員にとって、この三つの位置づけは自分の立ち位置を測る座標です。資材審査は第一線の作り手でも、第三線の監査でもない。第一線を牽制し、第三線に検証される第二線に座っている。ここを正しく置けて初めて、自分の独立性がどこから来るのかを説明できます。

032020 年改訂 ── 防衛線から役割の協働へ

IIA(内部監査人協会)は 2020 年に Three Lines Model を改訂しました。それまでの「3 本の防衛線(Three Lines of Defense)」という静的な比喩を、統治機関・経営・内部監査の役割関係として描き直したものです。

so why ── 「防衛線」という言葉は、守りを並んだ壁のように見せます。しかし実務で問われるのは壁の枚数ではなく、各役割がどれだけ独立し、どこへ報告するかでした。改訂版は線の数を競う発想を退け、役割の協働と独立性、そして報告経路に力点を移した。第二線が第一線に従属していないか、第三線が経営から独立して取締役会に直接報告できるか ── 論点はそこにあります。

04第二線が第一線に呑まれるとき

三線が崩れる最も多い形は、第二線が第一線に取り込まれることです。資材審査が営業と一体化し、作り手の論理で動き始めた瞬間に、第二線としての牽制機能は失われます。

so what ── 審査員が「現場の代行」になってしまえば、独立した第二線は名目だけになる。判断材料は単純です。審査員の評価指標や人事が営業部門に従属していないか。「売れる資材を通す」ことが評価されていないか。従属があれば、その審査は第一線へ落ち、牽制の重ねが一段失われます。第一線・第二線・第三線の役割分担そのものは、取締役会の視点 第 8 回でガバナンスの側から扱っています。

05第三線が第二線を検証する ── 審査の質も問われる

三線の独立性が効いてくる最後の局面が、第三線による検証です。内部監査が独立しているからこそ、第二線の有効性まで検証できる。これは審査員にとって、自分の仕事の質が監査の対象になりうることを意味します。

so why ── 審査基準が形だけで運用されていないか、逸脱対応の記録が残っているか、審査が営業に呑まれていないか。第三線はこれらを外から確かめます。審査の質そのものが統制の質の一部だからです。記録の薄い審査、独立性を欠いた審査は、第三線の検証で露見する。逆に言えば、独立して機能している審査は、内部監査の検証に耐えることで、会社全体の統制が動いている証拠の一片になります。だから審査員は、自分が第二線として独立しているかを、常に自分で点検しておく必要があります。

Key Points ── 持ち帰る 4 つ
  1. 第一線=現場、第二線=管理・コンプラ、第三線=内部監査。守りを役割で分けて重ねる。
  2. 2020 年改訂の Three Lines Model は、「防衛線」から役割の協働と独立性・報告経路へ力点を移した。
  3. 資材審査は第二線。作り手(第一線)と同一化すると、牽制機能が消える。
  4. 第三線(内部監査)は、第二線である審査機能の有効性そのものも検証できる。
出典・参考文献
  1. The Institute of Internal Auditors(IIA). The IIA's Three Lines Model(2020 改訂). 従来の「3 本の防衛線」を、統治機関・経営・内部監査の役割関係と独立性・報告経路の観点から描き直した枠組み。
  2. COSO. 全社的リスクマネジメント(ERM)── 戦略およびパフォーマンスとの統合(2017). 統制活動と機能の分離を含め、リスク対応を全社の統治の中に位置づける枠組み。
  3. 東京証券取引所. コーポレートガバナンス・コード 補充原則 4-13③. 内部監査部門と取締役会・監査役等との連携を求め、第三線の独立性を支える規定。