「STRONG」「究極の」「優れた」「唯一の薬」── 製品説明の場でこうした言葉が使われるとき、その根拠はどこにあるのか。厚労省の販売情報提供活動監視事業は平成31年度から毎年、医療機関から寄せられた疑義報告を集計・公表している。7年間の報告書を通じて、誇大な表現を用いた事例は繰り返し登場する。データの翻訳を変える、評価項目を入れ替える、1施設の方針を「ガイドライン」と呼ぶ── 手口は多彩だが、根本は同じ問いに帰着する。「それを言うエビデンスが本当にあるか」。

So what / So why ── このカテゴリの本質

「誇大な表現」とは、薬の効果・安全性・優位性を実際のデータより大きく見せる言葉・図・論理の使い方を指す。絵に描いた誇大広告のように露骨なケースは少なく、多くは「翻訳の選択」「評価項目の順序」「キャッチフレーズの選定」といった、一見ささいな判断の積み重ねとして現れる。

So what(要するに何が問題か)── 医療従事者は受け取った情報をもとに処方を決める。「STRONG」という単語一つでも、比較試験がない状況で他剤より優れると誤解させれば、それは処方選択のゆがみにつながる。「唯一の薬」という一文が副次評価項目を根拠にしているなら、医師は主要評価項目の限界を知らないまま患者に薬を渡すことになる。

So why(なぜ致命的か)── 薬の有効性・安全性の評価には設計された試験と確定した評価項目がある。誇大表現はその枠組みを事後的に書き換える行為だ。医療者は「試験のヒエラルキー(主要評価項目が上位)」「有意差の有無」「比較試験の有無」を知った上で処方判断をするが、誇大表現はその前提を崩す。患者には試験の限界を確認する手段がなく、処方の上流で間違いが起きれば被害は患者に直接届く。

さらに、誇大表現は市場全体を歪める。根拠のない優位性を主張された薬が採用されれば、より適した薬が棚に残る。医療資源の配分を誤らせる構造的リスクが、「言葉の選択」の問題の裏に潜んでいる。

What / Where / Why / How ── ガイドラインの何に逸脱したか

What(何をする逸脱か)
大きく5類型に分類できる。①根拠のないキャッチフレーズ(STRONG・究極・優れた)の使用、②製品名の由来や語感をプロモーションに転用、③試験デザインの枠外の評価項目や解析を有効性の証拠として提示、④飛躍した論理で安全性を誇張、⑤1施設の診療方針や個人見解を「ガイドライン」「専門家の確認」として格上げする行為。令和7年度には「生命予後改善を示した唯一の薬」という表現が副次評価項目のみを根拠にパンフレットに掲載された事例が報告されている。

Where(どの媒体・場面で起きるか)
雑誌掲載広告、製品紹介パンフレット、宣伝用チラシ、薬剤部ヒアリング時のMR口頭説明、オンライングループ面談、説明会スライドと、ほぼすべての情報提供媒体で確認されている。患者向け資材(解熱鎮痛消炎剤の図表事例)も含まれており、医療者を経由せず患者に届くケースもある。

Why(なぜ作り手がやってしまうか)
深層心理の4ドライバーで説明すると、まず「動機づけられた推論(結論先・データ後)」が働く。「この薬は優れている」という確信を先に持ち、それに合う表現を後付けで選ぶ。次に「局所合理化(1スライドだけ)」── 1枚の図の色選択や翻訳語の選択が誇大になっても「全体としては正確」と自己弁護する。「不作為の罪」も機能する。有意差がなかった主要評価項目をスライドに入れない、という「語らない選択」が誇大表現を作り出す。最後に「責任の外部化」── 「○○教授もそう言っている」という専門家の言葉への転嫁で、EBMの代わりに権威を使う。

How(何に逸脱しているか)
販売情報提供活動に関するガイドライン(2019年、厚労省)は「虚偽若しくは誇大な表現又は誤認を誘発させるような表現の使用その他広告規制に係る法令等に抵触する情報提供活動を行わないこと」(第3の2(1))を明記する。さらに同ガイドラインは提供する情報の科学的根拠として「有効性・安全性について、有利な情報のみを恣意的に選択すること」を禁じている。薬機法66条は医薬品の名称・効能効果等に関する「虚偽又は誇大な記事の広告、記述又は流布」を禁止し、適正広告基準(厚労省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知)も「医薬品等の効能効果及び安全性について最大級の表現又はこれに類する表現をしてはならない」と定める。製薬協コードも同趣旨の自主規制を設けている。

事例 ── あますことなく

平成31年度(2019)

媒体/製品領域: 製品紹介パンフレット/抗がん剤
何をしたか: 他剤とのVEGFR阻害作用比較グラフで、原著論文の縦軸「Less potent」「More potent」を「軽微な阻害作用」「著明な阻害作用」と翻訳。本剤のみが「著明な阻害作用」を持つ印象を与える構図にした。
どこが逸脱か: 原著の表現を強弱が明確な和訳に換えることで本剤の優位性を誇張した。翻訳の選択が誇大表現になる典型例。
原文引用:「原著論文からの翻訳表現が不正確である。」

媒体/製品領域: 雑誌掲載広告/抗アレルギー薬
何をしたか: 広告のキャッチフレーズに「STRONG」を使用。本剤の適応症の治験はシングルアームまたはプラセボ対照のみで、他剤より有効性が高いとするエビデンスはなかった。
どこが逸脱か: 他剤との比較エビデンスなしに「STRONG」という語で他剤との優位性を誤認させた。
原文引用:「他剤よりも有効性が高いというエビデンスなしに、『STRONG』という表現を用いた。」

媒体/製品領域: 口頭説明・ヒアリング用資料/抗菌薬
何をしたか: 薬剤部ヒアリングで企業担当者が製品名の由来(「卓越した」という意味を持つ単語を含む)を示し「卓越した効果をもつ薬剤」と強調。臨床試験は対照薬に対する非劣性検証のみ。
どこが逸脱か: 製品名の語源をプロモーションの根拠に転用し、非劣性試験の薬を「卓越した効果」と誇張した。
原文引用:「根拠が十分でない製品名の由来をプロモーションに用いた。」

媒体/製品領域: 製品紹介パンフレット/鎮痛薬
何をしたか: NSAIDsと血圧上昇の関連データ、本剤で血圧変化なしのデータを順に示した後、高血圧が慢性腎臓病のリスク因子という一般論を掲載。「本剤は腎機能への悪影響が少ない」という印象を作った。実際に本剤は重篤な腎障害患者を禁忌としている。
どこが逸脱か: 血圧と腎機能の因果を繋げた飛躍した論理で安全性を誇大に表現。禁忌がある薬を安全に見せた。
原文引用:「飛躍した論理展開をもとに安全性を誇張した。」

媒体/製品領域: 製品紹介パンフレット/抗血栓薬
何をしたか: 本剤と類薬を併記した「DIC診療のアルゴリズム」を掲載したが、原著論文は1施設の診療方針で、類薬のみを対象としたもの。本剤については原著に記載なし。出所の記載も不正確だった。
どこが逸脱か: 1施設の診療方針を本剤の診療ガイドラインであるかのように見せ、本剤の使用根拠を誇張した。
原文引用:「1施設の診療方針をガイドラインであるかのように誇張して見せた。」

媒体/製品領域: 宣伝用チラシ/緑内障・高眼圧症治療薬
何をしたか: 後発医薬品である本剤のチラシに「優れた眼圧下降効果」というキャッチフレーズを記載。根拠となるエビデンスの記載はなかった。
どこが逸脱か: 後発品で独自の有効性データがない状況で「優れた」という表現を根拠なく使用し、有効性を誇張した。
原文引用:「根拠なく『優れた』という表現を用いて効果を誇張した。」

媒体/製品領域: プレゼンテーション用スライド/血友病治療薬
何をしたか: 製品紹介のプレゼンテーションで臨床試験の結果を「良好だった」との見出しで紹介。対照群のないシングルアーム試験だったため「良好」の基準を尋ねると、明確な基準はなく「専門医の見解による」との回答だった。
どこが逸脱か: 対照のない試験結果を「良好」と表現し、専門医個人の見解を有効性の根拠に使った。
原文引用:「医師個人の見解をもとに、『良好』という表現でシングルアーム試験の結果を紹介した。」

令和2年度(2020)

媒体/製品領域: 製品紹介パンフレット・口頭説明/鎮痛剤
何をしたか: MRが「直接比較した試験はない」と断りつつ、2つのサブユニットからの解離半減期の差異を根拠に、本剤の方が他剤より副作用は少ないと断定して説明。審査報告書では発現割合は同程度と記載されていた。
どこが逸脱か: 直接比較データなしに作用機序の理論値のみで副作用の少なさを断定した誇大表現。
原文引用:「作用機序上の理由のみで、他剤よりも副作用が少ないと断定した説明を行った。」

媒体/製品領域: スライド・口頭説明/経腸栄養剤
何をしたか: 院内説明会で「経口患者に適した製剤」というスライドを提示。本剤の臨床試験は経管投与患者でのみ実施されており、経口投与のデータはなかったが製品特徴の1番目として積極的に説明した。
どこが逸脱か: エビデンスのない投与方法を特徴として誇張提示した。
原文引用:「試験データのない投与方法を積極的に提示して説明を行った。」

媒体/製品領域: 口頭説明/抗菌薬
何をしたか: MRが複数の細菌に対する本剤と他剤の抗菌活性比較グラフを示しながら「いずれの細菌に対しても他剤と比較して高い抗菌活性を有していた」と口頭説明。グラフ上、明らかに他剤の方が高い抗菌活性を示している細菌が存在していた。
どこが逸脱か: グラフと矛盾する口頭説明で、全菌種への優位性を誇大に主張した。
原文引用:「いずれの細菌に対しても他剤と比較して高い抗菌活性を有していた」という誇大な表現を用いた。

媒体/製品領域: ヒアリング用資料/抗菌薬
何をしたか: 薬剤部ヒアリングで学術担当者が、作用機序の違いや優れた成績を根拠に本剤を「究極の○○剤」と表現して情報提供を行った。
どこが逸脱か: 最大級の表現「究極の」を客観的根拠なく使用した。
原文引用:「製薬企業の学術担当者が『究極の』という誇大な表現を用いて説明した。」

令和3年度(2021)

媒体/製品領域: オンライン面談・口頭説明/抗精神病薬
何をしたか: 説明資料の下部に「本剤投与群と類薬投与群との比較を示したものではない」と注記があるにもかかわらず、両群それぞれのプラセボ優越性試験の結果をもとに、本剤と類薬の有効性が同等であると説明した。
どこが逸脱か: 比較を意図しない試験設計のデータを用いて同等性を主張した誇大説明。
原文引用:「本剤投与群と類薬投与群との比較を示したものではない」という注意書きを無視した説明が行われた。

媒体/製品領域: 対面口頭説明/抗がん剤
何をしたか: 主要評価項目は中央判定を優先する試験計画だったが、製品説明会で「中央判定では有意差がみられなかったものの、担当医師による判定では有意差が認められた」と計画外の評価も併せて説明した。
どこが逸脱か: 事前計画で優先された中央判定では有意差がなかった事実を薄め、担当医師評価で有効性を誇張した。
原文引用:「中央判定では有意差がみられなかったものの、担当医師による判定では有意差が認められた」

令和4年度(2022)

媒体/製品領域: 口頭説明・説明スライド/糖尿病薬
何をしたか: 日本人集団のサブグループ解析結果を求めたところ、有意差がなかったにもかかわらず「日本人でもしっかりと差が出ている」と説明。有意差がないことを指摘すると「○○教授も十分な効果が期待できると言っているので問題がない」と専門家の言葉を借りて有効性を説明した。
どこが逸脱か: 有意差なしの結果を「差が出ている」と言い換え、指摘されると権威転嫁でEBMを迂回した。
原文引用:「日本人でもしっかりと差が出ている」

令和5年度(2023)

媒体/製品領域: 患者向け資材/解熱鎮痛消炎剤
何をしたか: 患者向け資材で、全身作用型貼付剤である本剤が経口薬・局所作用型貼付剤と比較して効果が強く広範囲に及ぶかのような印象を与える図を掲載した。本剤は濃い色で全身末端まで、経口薬は薄い色で狭い範囲に図示。本剤だけ「全身」の文字を他より大きく強調した。
どこが逸脱か: 文字ではなく図の色・大きさ・範囲という視覚的手法で誇大な印象を作り出し、患者に効果が広範囲に強く及ぶと誤認させた。
原文引用:「効果が強く広範囲に及ぶかのような印象を与える図が掲載されていた」

令和6年度(2024)

令和6年度の報告書では、誇大な表現を用いてデータを説明したカテゴリの報告件数はゼロであった。前年度までの事例を踏まえた各社の取り組みの反映とも考えられるが、他カテゴリ(事実誤認の恐れ、他社誹謗・中傷)では引き続き複数の事例が報告されており、情報提供の質管理は継続的な課題である。

令和7年度(2025)

媒体/製品領域: オンライングループ面談・パンフレット/糖尿病用剤
何をしたか: 国際共同第Ⅲ相試験について、MRが「本剤は生命予後改善を示した唯一の治療薬」と口頭説明し、パンフレットにも同じ表現を記載した。しかし「生命予後改善」のデータは、全死亡までの期間という副次的評価項目によるものだった。
どこが逸脱か: 副次評価項目の結果を「唯一の薬」という最大級表現の根拠に使い、試験の位置づけを誇大に表現した。主要評価項目での裏付けなしに「唯一」とは言えない。
原文引用:「生命予後の改善を示した唯一の薬であるといった説明は、誇大な表現である。」

まず過去のインシデントから学ぶ ── 全 9 章の地図

  1. 第1回: 事実誤認のおそれのあるデータ使用・加工
  2. 第2回: データ・グラフの恣意的な抜粋/加工/見せ方
  3. 第3回: エビデンスのない説明・信頼性に欠ける情報
  4. 第4回: 未承認の効能効果・用法用量の提示
  5. 第5回 (本章): 誇大な表現
  6. 第6回: 有効性のみの強調・安全性情報の軽視
  7. 第7回: 他社製品の誹謗・中傷
  8. 第8回: 利益相反(COI)の不開示
  9. 第9回: その他の不適切な営業手法
Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. キャッチフレーズは根拠の代わりにならない. 「STRONG」「究極の」「優れた」「唯一の」という言葉には、他剤との直接比較試験や主要評価項目での裏付けが必要。語感の強さは科学的証拠の強さではない。
  2. 試験の枠を外れた数字を使うことが誇大表現になる. 中央判定で有意差がなければ「差がある」とは言えない。サブグループ解析や副次評価項目は補足情報であり、単独で有効性の主根拠にはなれない。
  3. 論理の飛躍と権威転嫁は誤りを隠す道具になる. NSAIDs→血圧→腎機能という連鎖推論、「○○教授がそう言っている」という専門家の言葉── いずれもエビデンスの不在を覆い隠す。指摘されたときに権威に逃げた時点で、科学的根拠はないと自白している。
出典・参考文献
  1. 厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」(2019年9月)
  2. 厚生労働省医薬・生活衛生局「医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業」報告書 平成31年度〜令和7年度
  3. 医薬品等適正広告基準(厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知、平成29年改正)
  4. 日本製薬工業協会「製薬協コード・オブ・プラクティス」(最新版)
  5. 薬機法第66条(誇大広告等の禁止)・第68条(未承認医薬品等の広告禁止)