「他の施設でも問題なかったと聞いています」「著名な先生が推奨されていました」「作用機序から考えると他剤より安全なはずです」。これらはすべて、医療現場に毎年繰り返し持ち込まれる"エビデンスなき説明"の典型例だ。厚労省監視事業報告書で7年連続して最多を占めるこのカテゴリは、口頭説明からパンフレット、メールDMまで媒体を選ばない。根拠が薄いまま処方を動かした先に何が起きるかを、全報告186件中最多を占めるこのカテゴリの約60件の事例から学ぶ。
So what / So why ── このカテゴリの本質
「エビデンスのない説明」とは、情報提供の根拠が科学的・客観的な検証に耐えないまま、医療者の処方行動や患者の治療選択に影響を与えようとする行為だ。具体的には、担当者本人の主観・口コミ・権威者の感想を根拠にした優越性の主張、査読を経ていない学会ポスターや10例未満の症例報告を「エビデンス」として提示すること、非劣性試験の結果を使って優越性を主張すること、そして臨床効果が実証されていないのに作用機序だけから「他剤より安全なはず」と断言することが含まれる。
なぜこれが致命的か。医療者は提供された情報を判断材料として処方に組み込む。「比較試験は実施していない」という事実を知らされないまま「他剤より出血リスクが有意に低い」と聞けば、実際には等価なリスクがある薬剤を優先投与してしまう。患者が出血イベントを起こしてから「根拠はありませんでした」と言っても、取り返しはつかない。
信頼性に欠けるデータの問題も同質だ。7例しか評価できていない症例文献で「全例有効」と説明する行為、シングルアームの切り替え試験を「有効性・安全性確認済み」と称するパンフレットは、見た目は科学的でありながら本質的には憶測に過ぎない。医療者が一次資料を毎回確認するとは限らない以上、提供された情報の信頼性が処方の質を直接左右する。
さらに深刻なのは、安全性情報の軽視との組み合わせだ。RMP(医薬品リスク管理計画)で「重要な特定リスク」として血栓塞栓症が挙げられているにもかかわらず、「緩やかなHb上昇だからリスクが低い」とエビデンスなく説明する事例が複数年にわたって繰り返されている。作用機序の論理は正しくても、それだけでは臨床上の安全性を保証できない。
What / Where / Why / How ── ガイドラインの何に逸脱したか
What: どんな行為か
主に6つのパターンがある。(1) 伝聞・口コミ・権威者の感想を根拠に優越性を主張する。(2) 査読なしのポスター発表や10例未満の少数例データで有効性を断言する。(3) 非劣性試験の結果から優越性を推論する。(4) 作用機序の違いだけを根拠に「他剤より安全」と説明する。(5) 引用元不明・出典不明のデータを資料に載せる。(6) 臨床試験から除外された患者層や未公表の長期データに「期待できる」「予想される」と言及する。
Where: どの媒体・場面で起きるか
口頭説明が最多だが、製品紹介パンフレット、プレゼンテーション用スライド、医療関係者向け情報サイトの動画、メール一斉配信DM、Web講習会(スポンサード講演含む)、院内説明会でも繰り返し確認されている。媒体の種類を問わないのがこのカテゴリの特徴で、MRの言葉一つから企業が制作した印刷物まで範囲が広い。
Why: なぜやってしまうか
4つの深層心理が重なっている。まず動機づけられた推論──「この薬は本当に良い薬だ」という確信が先にあり、その確信を支えるデータを後から探す。手持ちのデータが十分でない場面で、作用機序の理論や他施設の評判という「使えるもの」に手が伸びる。次に局所合理化──「この1枚のスライドに引用元は示していないが、IFには載っている」「ポスターは参考情報として出しただけ」と、自分の行為のリスクを最小化して解釈する。また不作為の罪──「根拠はないか」と聞かれるまで言わない、非劣性試験だと断らずに「優位な差がある」と言ってしまう。最後に責任の外部化──講演会の演者が「著名な先生が推奨していた」と言ったのであって自社の情報ではない、という認識が監督責任を薄める。
How: ガイドラインの何に違反しているか
販売情報提供活動ガイドライン(2019年)第3条は「提供する情報は、科学的及び客観的な根拠に基づくもので、その根拠を示すこと」を要求し、「科学的根拠は、元データを含め、第三者による客観的評価及び検証が可能なもの」とする。口コミ・個人の感想・権威者の発言はこれに該当しない。同ガイドラインは「科学的又は客観的な根拠なく恣意的に、特定の医療用医薬品の処方、使用等に誘引することを目的として情報提供を行うことは不適切」とも定める。薬機法第66条(誇大広告禁止)、製薬協プロモーションコード第9条(公正・正確な情報提供義務)、適正広告基準の「信頼性の確保された正確なデータを記載すること」の要件とも整合する。
事例 ── あますことなく
平成31年度(2019)── 14件
③-1 鎮痛薬 / 医療関係者向け情報サイト動画
医療者向けサイトの製品紹介動画で、医師が高齢者疼痛治療の「第1選択」として本剤を推奨。他剤を選ばない根拠は示されず、添付文書には「高齢者には副作用が現れやすい」と記載。
逸脱: 十分な根拠に基づかない医師個人の意見を宣伝に使用。
③-2 子宮内膜症治療薬 / 担当者による口頭説明
院内説明会で「他社製品より味が良い」と発言。根拠を確認すると担当者本人が服用してみての感想であり、エビデンスはなかった。
原文引用:「企業担当者本人が服用してみての感想であり、エビデンスはなかった」
③-3 漢方薬 / 口頭説明
他社製品との比較資料を持参し「他社製品よりも安価で、論文数が多く品質が優れている」と説明。1日薬価は本剤の方が高く、論文数は品質の根拠にならない。
逸脱: 不正確な情報・理解に基づく他社製品への優越性説明。
③-4 鎮痛薬 / 口頭説明
CYP非関与・グルクロン酸抱合を根拠に「相互作用がなく他社製品より安全」と説明。添付文書には併用注意薬が記載されており、実証エビデンスなし。
原文引用:「実証したエビデンスを示さずに、作用機序のみで他剤に対する優位性を説明した」
③-5 利尿薬 / プレゼンテーション用スライド
薬剤部内勉強会で「心不全患者への投与は再入院を減少させる」と断定的に説明。原著論文の主題は尿アクアポリン2との関係であり再入院は研究目的外。診療GLも「示唆する報告もあるが、長期予後改善効果は確立されていない」と留保。
逸脱: 不十分なエビデンスを断定的表現で説明。
③-6 酸分泌抑制薬 / 口頭説明
逆流性食道炎維持療法に5mg製剤の使用を勧奨。審査報告書は10mg→1日1回減量のみ記載。「5mg製剤も使用可能」「5mg2回の方が効果高い」と説明したが裏付け研究なし。
逸脱: 異なる規格の製剤情報を援用したエビデンスなき説明。
③-7 抗がん剤 / 担当者提供資料(写真)
包装変更の情報提供の際「活用してほしい」と述べ、査読なし学会ポスター発表を撮影した写真を資料として提供。そのポスターは結果の解釈に誤りが見られた。
逸脱: 査読のないポスター発表の写真を情報提供に使用。
③-8 漢方薬 / スライド・製品紹介パンフ
医局説明会で「全例で有効」と説明。投与10例のうち3例は「来院せず評価できず」で実質7例の評価。このデータはパンフにも掲載。
原文引用:「信頼性に欠ける情報提供である」
③-9 保湿薬 / 製品紹介パンフレット
複数パンフに信頼性欠けるデータが多数。切り替え後の有効性・安全性の根拠はクロスオーバーなしのシングルアーム試験。患者プロファイル・評価項目の詳細未記載。「短い時間で塗れる」の根拠は患者アンケート推察のみ。
逸脱: 信頼性に欠けるデータ・説明不十分なデータでプロモーション。
③-10 抗菌薬 / 口頭説明
医局説明会で除菌率の非劣性試験の結果を用いて本剤の優位性を強調するかのような説明。
逸脱: 非劣性試験の結果で優越性を主張。
③-11 子宮筋腫治療薬 / 口頭説明
非劣性試験の投与後初期時点のデータを流用し「既存薬と比較して効果が速やかに認められる」と口頭説明。
逸脱: 非劣性試験の結果で優越性を主張。
③-12 抗アレルギー薬 / 口頭説明
薬剤部向け説明会で「国交省の航空機乗組員用医薬品指針でパイロットへの投薬が制限されていないので眠くならない」と説明。指針の作成経緯は把握せず。粉砕後の「不快な味やにおいはない」の根拠も確認で回答なし。
逸脱: 不適切な資料を根拠とした説明・根拠のない主観的説明。
③-13 抗ウイルス薬 / 口頭説明
「ウイルス力価の減少が速く感染リスクを減少させる可能性がある」と説明。「ウイルス力価変化量」「ウイルス排出停止までの時間」は副次評価項目であり、感染リスク低下の直接データなし。
逸脱: 直接的なデータを示さず他剤への優位性を説明。
③-14 高リン血症治療薬 / 製品紹介パンフレット
パンフに「義歯にはさまりにくい」と記載があるが、根拠や比較対象が一切明示されていなかった。
逸脱: 十分なエビデンスを示さず製剤的特徴をメリットとして説明。
令和2年度(2020)── 11件
③-1 パーキンソン病治療薬 / 口頭説明
「力価が高い本剤への変更例がある」と、他剤との比較試験なしにドパミン等価換算表のみを根拠に優位性を説明。
原文引用:「力価が高い本剤への変更例がある」と、ドパミン等価換算表のみを根拠に説明
③-2 抗リウマチ薬 / 持ち帰り資料
資料に「腎障害時でも安全に使用できる薬剤である」と記載。実際は第Ⅲ相試験で腎障害患者が除外されており、薬物動態も単回投与でしか検証されていない。
逸脱: 十分な検証なく安全性を説明。
③-3 COPD治療薬 / 口頭説明
承認時の評価試験(IMPACT試験)ではなく参考試験(FULFIL試験)のみで有効性・安全性を説明。対象患者によって使用する試験を変えていたが、参考試験のみでは不正確かつ不十分な情報提供となる。
逸脱: 評価試験の結果でなく参考試験の結果のみで説明。
③-4 鎮痛剤 / 口頭説明
医師から「副作用が少ない根拠とは」と問われた学術担当者が「他製品と直接比較したデータはない。医師へのアンケートでは副作用が少ない」と、論文化もされていないアンケートのみで説明。
逸脱: 科学的根拠なく、アンケート結果のみで安全性の優位性を説明。
③-5 腎性貧血治療薬 / 口頭説明
RMP・適正使用ガイドで血栓症リスクが注意喚起されているにもかかわらず「既存薬と比較して血栓症リスクを改善できる可能性がある」と口頭説明。
逸脱: RMP等の注意喚起を無視し、明確な根拠なく他剤比でリスクが低いと説明。
③-6 入眠剤 / Web講習会
スポンサード講習会の演者医師が「ある著名な先生が**系睡眠薬は非常に良い薬であると言っていた」と発言。スポンサー企業にも監督責任がある。
逸脱: 根拠のない推奨説明(企業責任)。
③-7 腎性貧血治療薬 / 口頭説明
国内第Ⅲ相試験で関節リウマチ患者が除外されているにもかかわらず「炎症性疾患である関節リウマチ患者に対して効果が期待できる」と口頭説明。
逸脱: 臨床試験で除外された疾患に対し効果を期待できると説明。
③-8 緑内障・高眼圧症治療薬 / 口頭説明
他剤が供給停止になったタイミングで、比較試験・診療GL等を提示せず「本剤が代替薬となる」と説明。両剤は作用機序が異なり比較試験もなし。
逸脱: エビデンスなく作用機序の異なる他剤の代替薬と説明。
③-9 抗がん剤 / 口頭説明
全有害事象発生率が既存薬と同じで、グレード3以上の差もわずか数%にもかかわらず「グレード3以上の副作用が少ない傾向で優れている」と説明。相互作用についても「自身が相談を受けた経験はないので、それほど注意しなくても良い」「血液毒性には慣れているのでたいしたことではない」と根拠なく軽視。
原文引用:「今まで私自身が相談を受けた経験はないので、それほど注意しなくても良い」
③-10 利尿剤 / 口頭説明・提供資料
使用成績調査の資料で「入院時より退院後の方が副作用が少なくなる」と説明。資料は投与後日数しか記載しておらず入院vs退院の比較試験ではない。担当者が自分の解釈で「7日まで=入院」「8日以降=退院」と読み替えた。
逸脱: 試験の設計を無視した担当者独自の解釈で情報提供。
③-11 夜尿症治療薬 / 口頭説明(製品説明会)
医療者の要望なく民間ニュースのWebページの画面コピーを表示し「現時点でGLには記載がないものの、次期改訂で推奨グレードAになる見通し」と未確定情報で有効性を訴求。
逸脱: 民間ニュースを情報源とする未確定情報で有効性を主張。
令和3年度(2021)── 5件
パーキンソン病治療薬 / オンライン
質問なきまま、添付文書・審査報告書等に記載のない「同時投与で他剤の吸収阻害が起きる」と説明。
原文引用:「同時投与により当該他剤の吸収阻害がされると説明を受けた」
逸脱: 科学的根拠なく恣意的な情報提供。
抗リウマチ薬 / オンライングループ面談
臨床上の効果比較試験がないのに「選択性が高く、既存の同効薬より優れている」と説明。
原文引用:「選択性が高く、既存の同効薬より優れている」
逸脱: 科学的根拠なく他剤への優越性を主張。
鉄欠乏性貧血治療剤 / メール・電話
RMPの重要な潜在的リスクとされている疾患について「有害事象は認められないため、臨床的に問題ない」と説明。
原文引用:「有害事象は認められないことから、臨床的に問題ないと説明を受けた」
逸脱: RMP潜在リスクを不正確な情報で軽視。
がん疼痛治療薬(貼付剤)/ 口頭説明
「他剤の方が粘着力が強く剥がすときに痛いため、自社製品の方が優れている」と説明。粘着力に関するエビデンスなし。
原文引用:「他剤の方が粘着力が強く剥がすときに痛いため自社製品の方が優れている」
逸脱: 科学的根拠なく他剤への優位性を主張。
透析液 / オンライン
IF・審査報告書・製品概要に掲載がなく引用元不明のデータで有効性を説明。承認の基となった従来製品との比較には触れず。
原文引用:「引用元が示されていないデータを使いながら、有効性に関する説明…が行われた」
逸脱: 引用元不明・検証不能なデータの使用。
令和4年度(2022)── 10件
血液凝固阻止薬 / オンライン
各薬剤の直接比較試験がないのに「本剤は他剤よりも出血リスクの面で有意に安全であると評価されている」と説明。
原文引用:「本剤は他剤よりも出血リスクの面で有意に安全であると評価されている」
逸脱: 直接比較エビデンスなく安全性優位を主張。
多発性硬化症治療薬 / パンフレット
長期投与試験データがなくRMPに「長期安全性が重要な不足情報」と記載されているにもかかわらず、パンフに「長期予後を見据えて」「10年後を見据えて」という表現。
原文引用:「『長期予後を見据えて』『10 年後を見据えて』といった表現が用いられていた」
逸脱: 科学的根拠なく安易なキャッチコピーで長期有効性を示唆。
化膿性疾患用薬(外用剤)/ オンライン
「1日1回塗布でよい」と説明しその根拠として経口剤のグラフを使用。外用剤の有効性データの有無を問うと「ない」と回答。
逸脱: 剤形・投与経路の違いを無視したエビデンスなき用法説明。
代謝性医薬品 / オンライン
添付文書改訂文書に「MACEや悪性腫瘍等で死亡リスクが増加することもありません」と記載。確認すると「リスクが明確になっていないため」と回答したが、検証試験は実施中だった。
原文引用:「MACE や悪性腫瘍等で死亡リスクなどが増加することもありません」
逸脱: 情報がないことを安全と結びつけた誤認を生む表現。
不眠症薬 / 電話
割線のない本剤を「半錠できる」と説明。半錠のデータはなく、公式HPは半割非推奨、別資料は「半割・粉砕時の有効性・安全性は未検討」と記載。
逸脱: エビデンスを確認せず都合よく拡大解釈した説明。
抗ウイルス薬 / 電話
電話で「本剤は〇〇に効果が高い」と発言。後にヒアリングすると否定し、公式HPは前臨床データのプレスリリースのみで、臨床効果が確立されたかのように説明していた。
原文引用:「本剤は〇〇に効果が高いです」
逸脱: 前臨床データを臨床効果のように説明。
腎性貧血治療薬 / 対面(同効薬比較)
「同効薬と比較して効果発現が早い」の根拠を問うと、薬理作用の類似薬ではなく作用機序が異なる腎性貧血治療薬との比較資料を提示。
原文引用:「本剤は同効薬と比較して効果発現が早い」
逸脱: 比較対象を拡大解釈した曖昧な表現で誤認を生む説明。
腎性貧血治療薬 / 対面(血栓塞栓症)
臨床試験で血栓塞栓症が少ない事実がないのに「緩徐なHb値上昇が特徴であり血栓塞栓症リスクが低い」と、競合他剤より低いと捉えられる説明。
原文引用:「緩徐な Hb 値上昇が特徴であり血栓塞栓症リスクが低い」
逸脱: エビデンスなく安全性(血栓塞栓症)を軽視した説明。
関節リウマチ治療薬 / スライド
異なる第Ⅲ相試験同士の間接比較データで「本剤は同効薬より帯状疱疹発生率が低い」と強調。当該薬剤のRMPでは帯状疱疹が「重要な特定リスク」として挙げられている。
原文引用:「このデータは異なる第Ⅲ相試験の結果を比較したものであり、直接比較したものではない」
逸脱: 整合性のないデータで安全性リスクを軽視・強調。
麻酔薬 / 対面
質問なきまま添付文書に記載のない低用量(0.6・0.3mg/kg/時)での投与方法を勧め、裏付け論文の有無を問うと「ない」と回答。
出典: 厚生労働省「販売情報提供活動監視事業 報告書」令和4年度版
逸脱: エビデンスなく添付文書外の用法用量を推奨。
令和5年度(2023)── 8件
循環器官用薬 / オンライン
治療GL2021に記載がないのに「追補版として載る予定で、既存薬は推奨度B/Cだが本剤はより高くなることが予想される」と根拠なく説明。
原文引用:「追補版として載る予定である…本剤はこれらより推奨度が高くなることが予想される」
逸脱: 根拠のない情報でGL掲載予定・推奨度上昇をプロモーション。
呼吸器官用薬 / オンライン
質問なきまま「他社は1日1回設計で血中濃度を高く保つため副作用が多いが、本剤は伝達技術で山が小さく副作用が出にくい」と他社名を出して説明。根拠は「ある医師の発言」のみで「データはないので参考として」と付言。
原文引用:「データはないので参考として」
逸脱: データなく医師の意見を根拠に他剤より副作用が少ないと説明・他社誹謗。
無機質製剤 / オンライン(説明会)
電子添文は生食100mLで用時希釈・他輸液使用不可と記載。担当者が自発的に「他施設では生食50mLや5%ブドウ糖で溶解して問題なかったと聞いている」と説明。
原文引用:「他施設では生食50mLに溶解して投与しているらしいが特に問題はないと聞いている」
逸脱: 電子添文と異なるエビデンスなき投与方法を積極的に情報提供。
免疫疾患治療薬 / オンライン(作用機序)
作用機序比較スライドで「本剤は**部位に結合するため他の***阻害剤(3種類)より優れる」と説明。文献・データの有無を尋ねると「優劣を示すデータ・文献はない」と回答。
原文引用:「本剤の作用機序は、**部位に結合するため、他の***阻害剤(3種類)より優れている」
逸脱: エビデンスなく作用機序のみで他剤より優れると説明。
免疫疾患治療薬 / オンライン(日本人データ)
国際共同第Ⅲ相試験グラフに続き日本人部分集団グラフを示し「日本人でより高い有効性が期待できる」と説明。全体集団と日本人を直接比較した試験はなく、審査報告書は「顕著な差異なし」と記載。
原文引用:「本結果から、本剤は日本人でより高い有効性が期待できる」
逸脱: 直接比較データなしに日本人で有効性が高いと説明。
先天性代謝異常症治療薬 / オンライン
電子添文改訂のWEB説明中に無関係に「凍結乾燥製剤なので搬送時の衝撃等に対する安定性は注射液に比べて高い」と説明。凍結乾燥と液剤の安定性比較エビデンスなし。
原文引用:「凍結乾燥製剤であるので搬送時などで受ける衝撃等に対する安定性は注射液に比べて高い」
逸脱: 安定性比較エビデンスなく剤形で優越性を説明。
抗てんかん剤 / オンライン
「効果の強さ等をカバーする薬剤」と説明。「効果の強さ」の根拠を問うと「データはなく、臨床で使っている先生からそのように聞いています」との回答。
原文引用:「臨床で使っている先生からそのように聞いております」
逸脱: 科学的根拠なく「効果の強さ」を印象付け。
腫瘍用薬 / オンライン
他社データを示さず自社の5年後フォローアップデータを提示し「他社製品の臨床試験結果ではここまでのデータは出ていませんでしたが先生どうお考えか」と発言し、誹謗中傷的意見を誘導。
原文引用:「他社製品の臨床試験結果ではここまでのデータは出ていませんでしたが」
逸脱: 他社と直接比較データなく自社優越を示唆し誹謗的意見を誘導。
令和6年度(2024)── 9件
鉄欠乏性貧血治療剤 / オンライン
院内ヒアリングで「本剤は他社剤より免疫原性が低く過敏症が起こりにくい」と説明。比較試験資料を求めると「該当資料はなく、比較した免疫原性試験は実施していない」と回答。
原文引用:「該当資料はなく、***剤と比較した免疫原性試験は実施していない」
逸脱: 比較データなしに他社製品名を出して優位性に言及。
耳鼻科用剤 / オンライン(耐性化)
新薬ヒアリングで「他社剤にも耐性化の懸念がある」と説明。根拠を尋ねると当該剤は感受性調査薬剤に未採用で抗菌活性の経時変化が把握困難との回答。
原文引用:「情報がない中、他社製品の誹謗中傷と思われる情報提供を行った」
逸脱: エビデンスなく他社製品の誹謗中傷と思われる情報提供。
耳鼻科用剤 / オンライン(評価委員発言)
説明会で「第3相試験の効果安全性評価委員から『よく効く、期待している薬剤』との評価をいただいている」と説明。
原文引用:「治験の評価に関わった医師や権威者の感想を引用して、科学的または客観的な根拠なく情報提供を行うことは適切ではない」
逸脱: 権威者の感想を引用して科学的根拠なく情報提供。
漢方製剤 / 対面
「当社製品は他社と異なり特定成分を含み抗うつ作用がある」と説明。エビデンスを尋ねると「動物実験のデータであり、ヒトにおける有効性を示すデータはない」と回答。
原文引用:「動物実験のデータであり、ヒトにおける有効性を示すデータはない」
逸脱: ヒト有効性データ・他社比較データなしに優越性を主張。
制酸・緩下剤 / 対面
「入れ歯の患者でざらつき感が少ない」と説明。データ・論文を求めると「アンケート等はなく、全国MRからの口コミ情報を根拠とした」と回答。
原文引用:「口コミ情報を根拠としたエビデンスのない回答であった」
逸脱: 科学的根拠なく口コミを根拠に情報提供。
高カリウム血症改善剤 / 対面
「本剤は他社剤よりカリウム値が下がる」と換算量まで提示。根拠を確認したがエビデンスは見当たらず。
原文引用:「エビデンスなく他剤との有用性や製剤比較に言及していた」
逸脱: エビデンスなく他剤より効果があると言及し換算量まで提示。
抗悪性腫瘍剤 / 対面
国内治験データで外国人より副作用が多い理由を「日本の医師がまじめなので、海外よりも多くの報告が上がってしまうから」と根拠なく説明。実際は審査報告書で国内外差が注意喚起されていた。
原文引用:「日本の医師がまじめなので、海外よりも多くの報告が上がってしまうから」
逸脱: 国内外差をエビデンスなく説明し、審査報告書の安全性情報を適切に提供できていない。
神経障害性疼痛治療剤 / 対面(複数施設)
同効他剤との直接比較データがないのに「他剤よりも有効である」と説明。複数施設から同様の報告が寄せられた。
原文引用:「同効他剤と直接比較したデータがないにもかかわらず、『他剤よりも有効である』と企業担当者(MR)が説明を行った」
逸脱: 直接比較データなしに自社優位性を強調(複数施設で反復)。
抗ウイルス剤 / 電子メールDM
メール配信で「多剤服用患者に薬物相互作用が少なく使いやすい」と記載。他社比較の科学的根拠を示さず。
原文引用:「他社品との比較に関する科学的根拠を示さずに言及していた」
逸脱: エビデンスを示さず優位性を主張し、多剤服用患者への誤解を与える。
令和7年度(2025)── 2件
中枢神経系用薬 / オンライングループ面談・院内
投与18か月後の主要評価項目グラフを提示し「18か月でプラセボより進行を6か月遅らせられる、以降も差がさらに開く」と説明。長期投与試験の中間解析は未公表だった。
原文引用:「エビデンスを示すこともなく、予想で有効性を言及した不適切な情報提供である」
逸脱: 長期有効性データ未公表下でエビデンスなく予想で有効性に言及。
中枢神経系用薬 / 対面
血漿中濃度推移グラフで「錠剤はピークがあり副作用が出やすいが、本剤はなだらかで副作用が出にくい」と説明。根拠を尋ねると「ない」と回答。審査報告書では本剤の副作用は錠剤より少し多いと確認された。上司同席で訂正なし。
原文引用:「審査報告書の記載では、錠剤よりも少し多いという結果であることが確認された」
逸脱: エビデンスなく副作用が少ないと説明し、実際には逆の結果。
まず過去のインシデントから学ぶ ── 全 9 章の地図
- 第1回: 事実誤認のおそれのあるデータ使用・加工
- 第2回: データ・グラフの恣意的な抜粋/加工/見せ方
- 第3回 (本章): エビデンスのない説明・信頼性に欠ける情報
- 第4回: 未承認の効能効果・用法用量の提示
- 第5回: 誇大な表現
- 第6回: 有効性のみの強調・安全性情報の軽視
- 第7回: 他社製品の誹謗・中傷
- 第8回: 利益相反(COI)の不開示
- 第9回: その他の不適切な営業手法
- 「データはないので参考として」は禁句。 データがない時点で口にできない。根拠のない情報は「参考」として提供してよい情報ではなく、提供してはいけない情報だ。
- 作用機序の論理が正しくても、臨床上の優越性の根拠にはならない。 「CYP非関与だから相互作用が少ない」「HbがゆっくりしかあがらないからVTEリスクが低い」は仮説であり、実証されるまでは主張できない。
- 比較試験をしていない事実を先に伝える。 「直接比較のデータはありません」と言ってから話し始めることで、聞き手は情報を正しく評価できる。その一言を省くことが最も多く繰り返された違反だった。
- 厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」(平成30年9月25日付薬生発0925第1号)
- 厚生労働省「販売情報提供活動監視事業 報告書」平成31年度版(000509783)
- 厚生労働省「販売情報提供活動監視事業 報告書」令和2年度版(000652563)
- 厚生労働省「販売情報提供活動監視事業 報告書」令和3年度版(000819797)
- 厚生労働省「販売情報提供活動監視事業 報告書」令和4年度版
- 厚生労働省「販売情報提供活動監視事業 報告書」令和5年度版(001272191)
- 厚生労働省「販売情報提供活動監視事業 報告書」令和6年度版(001272195)
- 厚生労働省「販売情報提供活動監視事業 報告書」令和7年度版(001520054)
- 日本製薬工業協会「医療用医薬品のプロモーションコード」
- 厚生労働省「医薬品等適正広告基準」(平成29年9月29日付薬生発0929第4号)