「他社製品は精製が悪い」「B剤を使った患者が手術になった、これは異常事態だ」――これは実際にMRが医療機関で口にした言葉です。比較試験データのない状況で競合製品の欠点を強調したり、因果関係が確認されていない口コミ情報を使って不安を煽ったりする行為は、販売情報提供活動ガイドラインが明示的に禁じる「誹謗・中傷」に当たります。平成31年から令和7年までの監視事業報告書に記録された全事例を、媒体・手口・逸脱根拠とともに解説します。
So what / So why ── このカテゴリの本質
「誹謗・中傷」というと感情的な悪口を想像しがちですが、報告書の事例はもっと巧妙です。「データはないのですが参考として」と前置きしながら他社製品の副作用の多さを語る、切り替えを検討している医師に対してだけ競合品の有害事象情報を持ち込む、医師に「他社製品についてどう思いますか」と問いかけて誹謗意見を引き出す――どれも正面から「悪口を言う」形を避けながら、結果として他社製品への不信を植え付けます。
So what(何が問題か)を一言で言うと、エビデンスのないネガティブ情報を競合品に向けることで、処方選択を歪める点です。医療者は「根拠のある比較情報」を求めているのに、MRが提供するのは「根拠のない印象操作」です。処方が歪めば患者が受ける治療も変わります。
So why(なぜ致命的か)は二層あります。第一に、患者への直接的な影響です。比較データなき優越主張を信じた医師が、実は患者により適した選択肢を避けてしまうかもしれません。第二に、医療情報の生態系への影響です。誹謗・中傷が横行すると、医療機関はMRの言葉そのものを信用しなくなります。正確な情報も届かなくなるという悪循環が生まれます。
バイオシミラーの事例は特に深刻です。先行バイオ医薬品の企業が「バイオシミラーは同一ではない」「効果は疑問だ」と繰り返せば、医療費の節減を目的とした政策的な普及を阻む可能性があります。個社の利益が公衆衛生の目標と真っ向から衝突する場面です。
What / Where / Why / How ── ガイドラインの何に逸脱したか
What ── 具体的に何をする逸脱か
大きく5類型に整理できます。①求められていないのに他社の不利情報を持ち込む(バイオシミラーや後発品への不利益情報の積極的提供)、②比較データなく優越性を主張する(「他社より安全」「臨床上優れている」)、③他社製品名を挙げて欠点を列挙する(「A剤は初回倍量投与が必要、B剤は便秘が多い」)、④口コミ・未確認情報で不安を煽る(「異常事態」発言)、⑤医療者から誹謗意見を引き出す誘導(「他社製品について先生はどうお考えですか」)です。
Where ── どの媒体・場面で起きるか
MRによる対面訪問・オンライン面談が圧倒的多数です。スライド資料には競合品の製品名を載せず、口頭でだけ製品名を挙げるという手法が複数年にわたって確認されています(令和3年の事例が典型)。WEBセミナー・製品説明会でも起きており、大学病院の医師の発言を引用する形でエビデンスを偽装するケースもありました。令和4年の事例では上司がオンライン面談に同席しており、組織的な関与が示唆されています。
Why ── なぜ作り手がそれをやってしまうか
4つの深層ドライバーが働きます。①動機づけられた推論:自社品が優れていると信じているから、データがなくても「これは正しい」と感じる。②局所合理化:「参考として言っただけ」「聞かれたから答えた」と1回の発言を切り離して正当化する。③不作為の罪:競合品を誹謗せず自社品だけ説明すれば問題ないはずが、結果的に比較になってしまう場面での歯止めがない。④責任の外部化:「上司が同席していたので承認された行為だと思った」「口コミ情報を伝えただけで嘘はついていない」という意識です。
How ── 販売情報提供活動ガイドラインの何に逸脱するか
ガイドラインは「不適切な販売情報提供活動の類型」として、「他社製品を誹謗、中傷すること等により、自社製品を優れたものと訴えること」および「科学的又は客観的な根拠なく恣意的に、特定の医療用医薬品の処方、使用等に誘引すること」を明記しています。また、積極的に行うべき事項として「他社製品にとって不利となる情報のみを恣意的に選択しないこと」も定めており、比較情報を提供する際には自社製品の不利な点も含めることが求められます。薬機法第66条(誇大広告の禁止)および適正広告基準の「他社製品の誹謗広告の禁止」とも連動します。製薬協プロモーションコードも同様の禁止規定を設けています。
事例 ── あますことなく
平成31年度(2019年)
媒体・製品領域:MRによる口頭情報提供 / 抗がん剤(先行バイオ医薬品)
何をしたか:医療機関からの問い合わせが一切なかったにもかかわらず、担当MRがバイオシミラーへの切替を検討している複数モニター機関に対し、バイオシミラーへの不利益情報を積極かつ広範に提供した。内容は①「海外で承認されなかった(詳細は入手していないとのこと)」②外挿による適応取得・臨床試験が少ないことを強調③「同等/同質であって同一ではない」を強調④「既に先行バイオ製品を使用している患者はバイオシミラーに切り替えられない」(切替自体は禁止されていない)⑤本剤と無関係な別製品のバイオシミラーへの「効果は疑問である」「精製が悪い」という発言。
どこが逸脱か:求めに応じない情報提供、かつ科学的根拠のない否定的言及。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること」「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」に該当。
原文引用:「本剤とは無関係である別の製品のバイオシミラーに対する、『効果は疑問である』『精製が悪い』といった発言。」(平成31年度報告書)
令和2年度(2020年)
媒体・製品領域:MRによる口頭情報提供 / そう痒症治療薬(先発品)
何をしたか:医療機関が後発医薬品への切替を決定した後、先発品メーカーのMRが病院だけでなく周囲の保険薬局にも「後発医薬品は適応症が揃っていないため他県で保険上査定されている。切り替えを考え直してほしい」と説明して回った。
どこが逸脱か:後発医薬品にとって不利益となる情報を積極的かつ広範に提供。切替決定後に複数施設で展開しており組織的行動が疑われる。
原文引用:「後発医薬品は適応症が揃っていないため他県で保険上査定されている。切り替えを考え直してほしい」(令和2年度報告書)
媒体・製品領域:MRによる口頭情報提供 / 抗がん剤
何をしたか:他剤への切替を検討していた医療機関に対し、本剤担当MRが「他の施設では**を採用しても血管痛等の有害事象により採用品が元に戻っている」という情報提供を行った。その情報の詳細な調査内容等には一切触れなかった。
どこが逸脱か:検証されていない口コミ情報を使って他社製品への切替を妨害。「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」に該当。
原文引用:「他の施設では**を採用しても血管痛等の有害事象により採用品が元に戻っている」(令和2年度報告書)
媒体・製品領域:MRによる口頭説明 / パーキンソン病治療薬(テープ剤)
何をしたか:他社の同効薬を引き合いに出し、テープを貼った際の使用感について、他社製品と比較したデータが存在しないにもかかわらず「自社製品の方が優れている」と説明した。
どこが逸脱か:比較データなき優越主張。ガイドライン「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」に該当。適正広告基準の比較広告規定とも抵触する。
原文引用:「他社の同効薬との比較データがないにもかかわらず自社製品の方が優れているという説明を行った。」(令和2年度報告書)
令和3年度(2021年)
媒体・製品領域:オンライングループ面談での企業担当者説明 / 抗菌薬
何をしたか:スライド資料には競合品を成分名のみで表記したにもかかわらず、口頭説明では他社の製品名を何度も具体的に挙げながら自社製品との比較を繰り返した。
どこが逸脱か:資料では製品名を隠しながら口頭でだけ競合品を名指しする手口。文書上の体裁を整えつつ実質的に誹謗を行う典型パターン。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること」に該当。
原文引用:「スライド資料上では成分名のみの表記で具体的な製品名は記載していないが、口頭での説明では成分名ではなく、他社の製品名を何度も具体的に挙げ、本剤との比較を行った。」(令和3年度報告書)
令和4年度(2022年)
媒体・製品領域:病院へのMR訪問 / 腎性貧血治療薬
何をしたか:担当MRが「本剤だけが同じ投与量でも鉄の利用亢進をもたらします」と自社品の特徴を説明した後、「他社が出せなかった特徴」と付け加えた。自社品の説明自体は臨床試験で証明されているが、他社への言及が誹謗と受け取れる。
どこが逸脱か:事実の説明に他社否定の言葉を混ぜることで、医療者に自社優位の印象を植え付ける。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること」に該当。
原文引用:「他社が出せなかった特徴」(令和4年度報告書)
媒体・製品領域:オンライン面談での企業担当者説明 / 片頭痛予防薬
何をしたか:他社の同種同効薬は初回投与時にローディング(高用量の初回投与)が必要だが、本剤はローディングが不要であることを挙げ、根拠なく「臨床上優れている」と発言した。ローディングの有無は必ずしも臨床上の有用性を示すものではない。
どこが逸脱か:製剤設計の違いを科学的根拠なく臨床的優位性に結びつける誘導。「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」に該当。
原文引用:「他社の製品は初回投与時にローディングを行う必要があるが、本剤はローディングを行う必要がなく『臨床上優れている』という発言があった。」(令和4年度報告書)
媒体・製品領域:オンライン面談(企業担当者の上司も同席) / 片頭痛予防薬
何をしたか:同効薬3製品の比較表を画面共有した上で、医療機関から質問していないにもかかわらず「A剤は初回倍量投与しなければいけない、B剤は便秘が多い」と他社2製品を具体的に誹謗し、自社製品の優位性を訴えた。上司が同席しており、組織的な行動が強く疑われる。
どこが逸脱か:名指しでの欠点列挙。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること」の典型。上司同席という事実は組織的関与を示す。
原文引用:「企業担当者からは、(他社製品の)A 剤は初回倍量投与しなければいけない、B 剤は便秘が多いと、他社製品を誹謗し自社製品の優位性を訴える説明があった。企業担当者の上司も同席しており、組織的にこのような説明を行っている可能性をうかがわせる内容であった。」(令和4年度報告書)
令和5年度(2023年)
媒体・製品領域:オンライン面談での企業担当者説明 / その他の呼吸器官用薬
何をしたか:質問されていないにもかかわらず、担当者が他社製品の名前を挙げながら「他社製品は1日1回の設計で血中濃度を高く保つため**が多く、その結果、副作用が多いが、本剤は薬剤伝達技術により少量かつ回数が多いため、血中濃度の山が小さく副作用が出にくいと、ある大学病院の医師がおっしゃっていた」と説明した。「データはないので参考として」と断ってはいたが、エビデンスのない説明だった。
どこが逸脱か:大学病院医師の「発言」を盾にしながらエビデンスなく他社品を「副作用が多い」と印象づける手法。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること」「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」に該当。
原文引用:「他社製品は 1 日 1 回の設計で血中濃度を高く保つため**が多く、その結果、副作用が多いが、本剤は薬剤伝達技術により少量かつ回数が多いため、血中濃度の山が小さく副作用が出にくいと、ある大学病院の医師がおっしゃっていた」(令和5年度報告書)
媒体・製品領域:オンライン面談での企業担当者説明 / その他の腫瘍用薬
何をしたか:企業担当者が他社製品名を出した上で「***(他社製品)の臨床試験結果ではここまでのデータは出ていませんでしたが、この点について、先生、どのようにお考えでしょうか」と医師に問いかけた。他社製品のデータやグラフは一切提示されなかった。
どこが逸脱か:自分では誹謗せず医療者に誹謗意見を「言わせる」誘導型の手口。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること」の実質的な回避を図ったが逸脱と判断された。
原文引用:「***(他社製品)の臨床試験結果ではここまで(自社製品の数値)のデータは出ていませんでしたが、この点について、先生、どのようにお考えでしょうか」(令和5年度報告書)
媒体・製品領域:企業主催WEB製品説明会 / 糖尿病治療薬
何をしたか:WEB講演会後の追加製品紹介で、医療者から「他剤はCKDの適応があるが、本剤はどうか」と質問を受けた。企業担当者は「他剤の治験では腎硬化症の症例が含まれていないが、本剤の治験では含まれており、より実態に近い」と回答したが、腎生検の実施状況を問われると「そこまでは知らない」と答えた。根拠が不十分なまま他社の治験の質を批判する発言だった。
どこが逸脱か:医療者の正当な質問への回答の形を取りながら、根拠不十分のまま競合品の治験の質を貶める。「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」「他社製品を誹謗、中傷すること」に該当。
原文引用:「他剤の治験では腎硬化症の症例が含まれていないが、本剤の治験では腎硬化症の症例が含まれており、より CKD の実態に近い治験となっている」(令和5年度報告書)
令和6年度(2024年)
媒体・製品領域:企業担当者による説明(オンライン) / 鉄欠乏性貧血治療剤
何をしたか:院内での製品ヒアリングの際、担当MRが副作用の説明として「本剤は(他社製品の)***剤より免疫原性が低い特徴がある。免疫原性が低いので、本剤は***剤よりも過敏症が起こりにくい」と他社製品名を挙げて自社製品の優位性を主張した。比較免疫原性試験に関する資料提供を求めたところ、後日「該当資料はなく、***剤と比較した免疫原性試験は実施していない」との回答が返ってきた。
どこが逸脱か:比較データが存在しないことを把握しながら、他社製品名を挙げて「過敏症が起こりにくい」と優位性を主張した。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること」「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」に該当。
原文引用:「(他社製品の)***剤より免疫原性が低い特徴がある。免疫原性が低いので、本剤は***剤よりも過敏症が起こりにくい」(令和6年度報告書)
媒体・製品領域:企業担当者による説明(オンライン) / 耳鼻科用剤
何をしたか:新薬ヒアリング時に担当MRが「**系抗菌薬では経口剤および眼科領域で高用量製剤への切替が進んでいる。耳科領域でも起炎菌の耐性化が進んでおり、他社製品の***剤にも同様の懸念がある」と説明した。耳鼻科領域の耐性化が他社品の影響かを問い合わせると「学会による抗菌薬感受性サーベイランスにおいて耳鼻科領域では***剤は感受性調査薬剤に採用されておらず、***剤の抗菌活性の経時変化を正確に把握することは難しい」と回答。情報がないにもかかわらず他社製品に耐性化の懸念があると印象づけた。
どこが逸脱か:エビデンスも調査データも存在しない状態で他社製品に耐性化リスクの懸念があると示唆。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること」「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」に該当。
原文引用:「耳科領域でも起炎菌の耐性化が進んでおり、他社製品の***剤にも同様の懸念がある」(令和6年度報告書)
媒体・製品領域:企業担当者による説明(直接対面) / 漢方製剤
何をしたか:製品説明の中で担当MRが「当社製品は、他社製品と異なり、特定の成分を含んでおり、抗うつ作用がある」と説明した。エビデンスを求めると「動物実験のデータであり、ヒトにおける有効性を示すデータはない」と回答。動物実験データだけを根拠に「他社製品と異なり」と差別化を図り、他社製品にはその成分・作用がないかのような印象を植え付けた。
どこが逸脱か:ヒトにおける有効性データがないにもかかわらず他社製品との差異を強調し、自社品優位の印象を作り出した。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること」「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」に該当。
原文引用:「当社製品は、他社製品と異なり、特定の成分を含んでおり、抗うつ作用がある」(令和6年度報告書)
媒体・製品領域:電子メールによるDM一斉配信 / 抗ウイルス剤
何をしたか:担当MRがメール一斉配信で製品紹介を行った際、日本肝臓学会「C型肝炎治療ガイドライン(第8.2版)」の薬物相互作用の表を引用したが、自社品の相互作用の大半は掲載せず他社品の相互作用を抜粋して掲載し、自社品は薬物相互作用が少なく使いやすいが他社品は多く使いにくいというバイアスを与えた。さらに科学的根拠を示さずに「多剤を服用の患者さんには、薬物相互作用が少なく使いやすい」と本剤の優位性を言及した。
どこが逸脱か:公的ガイドラインの表を恣意的に抜粋し、他社品の相互作用が多いかのような印象を操作。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること」「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」に該当。
原文引用:「自社品の相互作用の大半は掲載せず、他社品の相互作用を抜粋して掲載し、あたかも自社品は薬物相互作用が少なく使いやすいが、他社品は薬物相互作用が多く、使いにくいというバイアスを与えた。」(令和6年度報告書)
令和7年度(2025年)
媒体・製品領域:MRによる対面情報提供 / 他に分類されない代謝性医薬品
何をしたか:担当MRが「他社製品(B剤)の使用患者において有害事象が発生し、手術が必要になった患者が県内で2名も出た」という口コミ情報を持参し、「これは異常事態と考えられるので当社のA剤に採用を変更してほしい」と求めた。B剤との因果関係は確認されていない。本事例は⑥(誹謗・中傷)と⑦(その他)の両方に分類された同一事例。
どこが逸脱か:因果関係が不明な有害事象情報を「異常事態」という感情的表現とともに使い、医療者の不安を煽って切替を迫る。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること等により、自社製品を優れたものと訴えること」「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」の両方に該当。
原文引用:「(他社製品の)B 剤使用患者において有害事象が発生し、手術が必要になった患者が県内で 2 名も出たとの口コミ情報を得たと伝えに来院した。これは異常事態と考えられるので当社の A 剤に採用を変更してほしい」(令和7年度報告書)
媒体・製品領域:オンライングループ面談(院内) / 混合生物学的製剤(ワクチン)
何をしたか:医療従事者が求めていないのに、担当MRがA剤について説明する際に「他社製品のB剤はバイアル製剤とシリンジ製剤の組み合わせ製剤であるため用時調製が必要ですが、A剤はシリンジ製剤であり用時調製が不要です」と他社品が劣っているような印象を与えた。A剤のほうが有効期限が短いという自社品の不利な点は提示しなかった。
どこが逸脱か:ガイドラインは「他社製品にとって不利となる情報のみを恣意的に選択しないこと」と定めている。比較するなら自社品の不利な点も合わせて提供する必要があるが、他社の不利点だけを抜粋した。
原文引用:「(他社製品の)B 剤はバイアル製剤・シリンジ製剤の組み合わせ製剤であるため用時調製が必要ですが、A 剤はシリンジ製剤であり用時調製が不要です」(令和7年度報告書)
媒体・製品領域:新薬説明会でのプレゼンテーション(MR対面) / 末梢神経系用薬
何をしたか:MRが睡眠障害の副作用発現率として「他社製品B剤では10数パーセント、本剤A剤では2.4%」と説明した。ところが後で医療者がインタビューフォームを確認すると、B剤の数字は副作用「全体」の発現率、A剤の数字は「傾眠」のみの発現率であり、同じ基準で比べていなかった。実際の傾眠発現率はB剤のほうが1%以下と低かった。
どこが逸脱か:異なる基準の数字を並べて自社有利に見せる比較。事実誤認を与えかねない情報提供であり、ガイドライン「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」に該当。結果的に他社製品の副作用が多いかのような印象を作り出した。
原文引用:「MR の説明した発現率は、他社製品 B 剤については副作用全体の発現率の数字であり、A 剤は傾眠のみの発現率の数字であり、これらを比較して説明していたことがわかった。…傾眠の発現率は他社製品 B 剤のほうが 1%以下と低く、事実誤認を与えかねる説明といえる。」(令和7年度報告書)
媒体・製品領域:院内製品説明(MRと学術担当者の2名来院) / 抗悪性腫瘍剤
何をしたか:学術担当者が「本剤は他社製品A剤と同じ作用を持つ抗体だが、結合している抗がん剤が異なる。A剤は骨髄抑制が強くG-CSFが必要になる。本剤はほとんど骨髄抑制がない」と説明した。しかし本剤でも骨髄抑制は重大な副作用の一つとして設定されている。
どこが逸脱か:本剤にも存在する重大な副作用を「ほとんどない」と述べながら他社品の骨髄抑制の強さを強調する。副作用全体ではなく自社に有利な一部の副作用のみを選択して比較する手法。ガイドライン「他社製品を誹謗、中傷すること」「科学的根拠なく恣意的に誘引すること」に該当。
原文引用:「A 剤は骨髄抑制が強く G-CSF が必要になる。本剤はほとんど骨髄抑制がない」(令和7年度報告書)
まず過去のインシデントから学ぶ ── 全 9 章の地図
- 第1回: 事実誤認のおそれのあるデータ使用・加工
- 第2回: データ・グラフの恣意的な抜粋/加工/見せ方
- 第3回: エビデンスのない説明・信頼性に欠ける情報
- 第4回: 未承認の効能効果・用法用量の提示
- 第5回: 誇大な表現
- 第6回: 有効性のみの強調・安全性情報の軽視
- 第7回 (本章): 他社製品の誹謗・中傷
- 第8回: 利益相反(COI)の不開示
- 第9回: その他の不適切な営業手法
- 「データはないので参考として」は免責にならない。 エビデンスなく他社品の副作用を語れば、断り書きがあっても誹謗・中傷と判断される。
- 口コミ情報を「異常事態」と表現して不安を煽る手法は、薬機法・ガイドラインの双方に抵触する。 因果関係が確認されていない有害事象を販売活動に使ってはならない。
- 比較情報を提供するなら自社品の不利な点も必ずセットで提示する。 他社の不利点だけを選択的に提示することも、不適切な誹謗・中傷と見なされる。
- 厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」(2018年9月25日付、医薬監麻発0925第1号)
- 厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」第66条(誇大広告の禁止)
- 厚生労働省「医薬品等適正広告基準」(2017年9月29日付改正、薬生発0929第4号)
- 日本製薬工業協会「プロモーションコード」(最新版)
- 厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業報告書」(平成31年・令和2〜7年度版、各年度公表)