不正はどこかで起きます。問われるのは、起きにくい仕組みをあらかじめ作っていたかどうかです。本稿は、大会社の取締役会に課された内部統制システムの構築義務を会社法 362 条 4 項 6 号・5 項と施行規則 100 条に立ち戻って確かめ、資材審査の体制がこの内部統制の一部としてどう位置づくかを整理します。

01取締役会が負う「決定」の義務

内部統制システムの整備は、現場が任意で進める改善活動ではありません。大会社では、その体制をどう整えるかを「決定」すること自体が取締役会の義務です(会社法 362 条 4 項 6 号・5 項)。決めなかった、あるいは決めたが中身が空疎だった——そのどちらも、義務を果たしていないと評価されうる。

この義務は資材審査に直結します。資材審査の社内体制は、業務の適正を確保するための仕組みの一部であり、すなわち内部統制の一部分です。審査体制の欠落や形骸化は、現場の不手際ではなく、取締役会の構築義務の問題として立ち上がる。誰の責任かを一段上へたどると、体制を決める側に行き着きます。

02会社法 362 条 4 項 6 号・5 項と施行規則 100 条

条文を見ます。362 条 4 項 6 号は「業務の適正を確保するための体制」の整備に関する決定を取締役会の専属事項とし、個々の取締役へ委ねることを認めません。続く 5 項が、大会社にその決定を義務づける。何を整えるべきかの具体的な中身は、会社法施行規則 100 条が列挙します。

施行規則 100 条が挙げるのは、たとえば情報の保存・管理、損失の危険(リスク)の管理、職務執行の効率性、使用人の法令遵守、企業集団における体制などです。抽象的な「適正な体制」が、規則のレベルで項目に分解されている。資材の作成・審査・記録の体制は、このうち法令遵守とリスク管理の体制に重なります。

決定

362 条 4 項 6 号

業務の適正を確保する体制の整備に関する決定を取締役会の専属事項とし、個々の取締役への全面委任を禁じる。

義務

362 条 5 項

大会社に対し、その体制整備の決定を義務づける。決定の不在は、それ自体が義務違反になりうる。

具体

施行規則 100 条

情報の保存・管理、リスク管理、法令遵守、企業集団の体制など、整えるべき項目を列挙する。

03「作った」だけでは足りない — 構築と運用は別レイヤー

体制を整備する義務と、整備した体制が現に機能しているかを監視する義務は、別物です。決定して仕組みを作っただけでは、義務の半分しか果たしていません。作った仕組みが空回りしていないか、逸脱が放置されていないかを見続ける局面があります。

運用の監視がどこまで取締役に及ぶか、その射程は第 9 回で扱います。ここでは、構築と運用が二層に分かれることを押さえます。資材審査も同じで、審査基準を整えただけでは足りず、運用の実態が問われる。立派な手順書があっても、実際に機能していなければ統制は名目にとどまります。

04大和銀行株主代表訴訟が引いた線

構築義務の射程を示した代表例が、大和銀行株主代表訴訟(大阪地判平成 12 年 9 月 20 日)です。判決は、リスク管理体制の整備が取締役の善管注意義務の内容に含まれると述べました。体制を欠く、または実質を伴わない体制は、善管注意義務違反と評価されうる。

この事件で問われたのは、損失が出たという結果そのものよりも、損失を防ぎ・早期に把握する体制を整えていたかでした。「気づかなかった」は、気づける仕組みを作っていなかったことの裏返しになりうる。体制の有無が、責任の重さを分ける分水嶺になります。現場・管理部門・内部監査が守りを分担する三線の役割は第 8 回で扱います。

05資材審査の現場へ — 体制の一部としての審査

ここまでの整理は、資材審査の実務に降りてきます。資材審査の体制は、施行規則 100 条が挙げる法令遵守・リスク管理の体制の一部であり、その不備は現場の問題にとどまらず、取締役会の構築義務の問題へ連なります。審査員は、内部統制の前線に立っているわけです。

だから審査員は、自分の体制を「ある/なし」だけでなく「機能しているか」で語れると強い。基準があるか、逸脱を上げる経路があるか、記録が残っているか——これらは運用の証拠です。審査記録が統治の証拠としてどう働くかは第 10 回で扱います。体制を作る義務と、動かし続ける義務。その両方に審査が組み込まれていると示せることが、現場の説得力になる

Key Points ── 持ち帰る 4 つ
  1. 大会社の取締役会は、内部統制システム整備の「決定」をする義務を負う(362 条 4 項 6 号・5 項)。
  2. 整えるべき体制の具体的な中身は、会社法施行規則 100 条が項目として列挙する。
  3. 構築義務と運用監視義務は別レイヤー。「作った」だけでは足りず、機能しているかが問われる。
  4. 資材審査体制は内部統制の一部であり、その不備は取締役会の構築義務の問題に直結する。
出典・参考文献
  1. 会社法第 362 条第 4 項第 6 号・第 5 項(内部統制システムの整備). 大会社の取締役会に、業務の適正を確保するための体制整備の決定を義務づける。
  2. 会社法施行規則第 100 条. 整備すべき体制の具体的内容(情報の保存・管理、リスク管理、法令遵守、企業集団の体制等)を列挙する。
  3. 大和銀行株主代表訴訟(大阪地判平成 12 年 9 月 20 日). リスク管理体制の整備が取締役の善管注意義務の内容に含まれることを示した。