01プログラム医療機器(SaMD)とは何か

AI 医療機器の多くは、専用のハードウェアを持たない「ソフトウェア単体」です。これを日本の法律はプログラム医療機器(=SaMD、Software as a Medical Device、それ自体が医療機器として働くソフトウェア)と呼びます。2014 年の薬事法改正で法律名が薬機法(=医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)となり、このときソフトウェア単体が正式に医療機器の対象へ加わりました。

大事なのは、すべてのヘルスケアアプリが医療機器になるわけではない、という点です。判断の軸は「そのソフトウェアが、病気の診断・治療・予防に使われ、機能の障害が起きたときに人の生命や健康にどれだけ影響するか」です。健康管理の記録アプリは対象外でも、画像から病変を検出して医師の診断を支えるソフトウェアは、医療機器になります。

この線引きは、開発の一番はじめに効きます。医療機器に当たるなら、承認や認証を得るまで販売できません。当たらないと判断したのに実は医療機器だった、という取り違えは、それ自体が未承認品の提供という重い問題につながります。だから最初に、自社のソフトウェアがどちら側にあるかを、根拠をもって定めておく必要があります。

02クラス分類 ── リスクで決まる審査の重さ

医療機器は、患者さんへのリスクに応じて 4 つのクラスに分かれます。AI 医療機器がどのクラスに入るかで、通る道も、求められる証拠の重さも変わります。まず全体像を押さえます。

クラスリスクの目安AI 医療機器での例と手続き
クラス I(一般医療機器)不具合でも人体への影響が軽微該当は少ない。届出で足りる
クラス II(管理医療機器)不具合が比較的低リスク画像の計測補助など。第三者認証機関の認証(基準がある品目)
クラス III・IV(高度管理医療機器)不具合が生命に関わりうる病変検出・治療用アプリなど。PMDA 審査を経た大臣承認

AI で病変を見つけたり、治療方針に踏み込んだりするソフトウェアは、クラス II の後半からクラス III に入ることが多く、PMDA の審査を正面から受けます。ここで問われるのは「AI が賢いか」ではなく、意図した使い方の範囲で、有効性と安全性が示せているかです。性能の高さと、承認に足る証拠は、別のものだと最初から理解しておく必要があります。

03PMDA審査の流れ

クラス III 以上、または認証基準のない品目は、PMDA の審査を経て厚生労働大臣の承認を得ます。流れを、開発側の動きに沿って四段階で見ます。

Step 01

開発前相談

"設計の前に問う"

PMDA の対面助言(=開発中の製品について事前に相談できる制度)を使い、評価の考え方や必要な試験を早い段階で擦り合わせる。手戻りを減らす最初の関所。

Step 02

性能・臨床評価

"証拠を集める"

意図した使い方の範囲で、AI の性能を検証する。学習用と評価用のデータを分け、感度・特異度などを、想定する使用集団で示す。

Step 03

承認申請・審査

"提出して問答する"

申請資料を PMDA に提出し、審査担当と照会・回答を重ねる。使用目的・性能・リスク管理の一貫性が問われる。

Step 04

承認・上市

"範囲が確定する"

承認された使用目的・効能の範囲が、そのまま販売と説明の枠になる。この枠の外は語れない。

四段階を貫く芯は、「意図した使用目的」を最初に定め、最後まで動かさないことです。AI は学習データ次第でいくらでも別のことをできてしまいますが、承認は「この目的でこの集団に使う」という約束の上に成り立ちます。約束の範囲を、証拠と説明でどこまで固く支えられるか ── 審査はそこを見ています。

04変更計画確認手続(IDATEN)

AI 医療機器には、他の機器にない特有の難しさがあります。学習して性能が変わっていくことです。市販後にデータを追加学習して精度を上げたい ── けれど、承認は「申請した時点の性能」に対して下りています。変えるたびに一から承認を取り直していては、AI の強みである改良の速さが失われてしまいます。

この矛盾に応えるのが、変更計画確認手続(=IDATEN、Improvement Design within Approval for Timely Evaluation and Notice、あらかじめ変更の計画を承認しておく制度)です。2020 年施行の改正薬機法で導入されました。将来どう性能を改良するか、その範囲と検証方法をあらかじめ計画として承認しておけば、計画の枠内での変更は、そのつど新規承認を取り直さずに実装できます。

論点IDATEN を使わない場合IDATEN を使う場合
改良のたびの手続き変更ごとに承認申請をやり直す承認済み計画の範囲内なら再申請不要
あらかじめ決めること特になし(都度対応)変更の範囲・検証方法・逸脱時の対応を事前に約束
向いている製品変更がまれな機器継続的に学習・改良する AI 医療機器

IDATEN の勘所は、「何をどこまで変えてよいか」を、変える前に PMDA と合意しておく点にあります。自由に変えられるようになるのではなく、変更の範囲そのものを審査に載せる。無制限の学習を許す制度ではなく、改良の道筋を先に約束することで、速さと安全を両立させる仕組みです。

05市販後の管理 ── 出してからが本番

承認は、ゴールではなく管理の始まりです。医療機器には市販後の安全管理(=GVP などの基準に基づく監視)が求められ、AI 医療機器では、これに性能の変化を見張るという固有の課題が加わります。

とくに注意が要るのが、データドリフト(=実際に使われる現場のデータが、学習時の想定から少しずつずれていく現象)です。学習に使った集団と、実際の患者さんの分布が変われば、承認時に示した性能が現場で再現されないことがあります。だから市販後は、不具合の報告を集めるだけでなく、性能が計画どおり保たれているかを継続して確かめる必要があります。

「動いている」と「正しく効いている」は別: AI 医療機器は、エラーを出さずに動き続けていても、性能だけが静かに落ちていることがあります。データドリフトは画面上のエラーになりません。だからこそ、市販後の性能モニタリングを IDATEN の変更計画と一体で設計し、劣化を検知したときに誰がどう対応するかを、上市前に決めておくことが要ります。出してからの監視まで含めて、初めて設計は完成します。

市販後に不具合や健康被害が疑われた場合、製造販売業者には報告の義務があります。これは薬機法に基づく安全確保の仕組みであり、AI 製であることは何の免除にもなりません。むしろ、性能が変わりうる分だけ、見張る責任は重くなります。

06国際整合 ── 日本だけを見ない

AI 医療機器の規制は、日本だけで完結しません。同じ製品を各国で出そうとすれば、それぞれの規制に向き合うことになります。ここで頼りになるのが、国際的に共有された考え方です。

細部は国ごとに違いますが、根っこの問いは共通です ── 意図した使い方の範囲で有効性と安全性を示し、変わり続ける性能をどう管理するか。国際整合を意識して設計しておくと、一つの製品を複数の市場に届けるとき、証拠の作り直しを減らせます。日本の承認だけを見て作り込むと、後で世界展開が難しくなることがあります。

07企業の実務 ── 開発とメディカルが最初にすること

ここまでを、製薬・医療機器企業の現場が動ける形に落とします。AI 医療機器を扱うなら、開発の初期に決めておくべきことが四つあります。

実務 01

該当性を先に固める

そのソフトウェアが医療機器に当たるか、当たるならどのクラスか。開発の一番はじめに、根拠をもって判定しておく。後戻りが最も高くつく論点。

実務 02

使用目的を一文で書く

「誰に、何のために、どう使わせるか」を一文に定める。承認・説明・広告のすべてが、この一文の範囲に縛られる。曖昧なまま進めない。

実務 03

変更計画を設計に織り込む

将来どう改良するかを、開発段階から IDATEN の枠で考えておく。上市してから慌てて計画を作らない。改良の道筋を先に描く。

実務 04

市販後監視を上市前に決める

性能のモニタリングと、劣化時の対応・報告の流れを、出す前に定めておく。誰が見張り、誰が止めるかまで含めて設計する。

四つに共通するのは、「後で考える」を「先に決める」に変えるという姿勢です。AI 医療機器の規制は、開発が終わってから貼り付ける化粧ではありません。使用目的・証拠・変更計画・市販後監視を、設計の骨格そのものに組み込む。そうして初めて、AI の速さと、医療機器の安全が、同じ製品の中で両立します。

08広告・情報提供の柵 ── AI 医療機器でも同じ物差し

承認を得た後、その製品をどう説明し、どう伝えるか。ここにも動かない柵があります。薬機法の広告規制は、医薬品だけでなく医療機器にも及びます。中心は次の三つです。

条文何を定めるかAI 医療機器での注意
薬機法 第 66 条誇大広告等の禁止。効能・性能について虚偽・誇大な表現をしてはならない「AI が診断」「精度◯%」など、承認範囲を超えた性能の強調に注意
薬機法 第 68 条承認前の医療機器等の広告の禁止承認・認証を得る前に、製品名や効能を広告できない
薬機法 第 68 条の 2適正使用のための情報提供(努力義務)性能の限界・使用上の注意など、伝えるべき情報の欠落を避ける

条文の取り違えは、それ自体が信頼を損ないます。誇大広告は 66 条、未承認広告は 68 条、情報提供は 68 条の 2 ── ここは丸暗記でよい土台です。医薬品の販売情報提供活動については販売情報提供活動ガイドライン(=販提 G、医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン、厚生労働省医薬・生活衛生局長通知、2018 年)が、広告表現の物差しについては医薬品等適正広告基準(=厚生労働省 医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課長の通知として示された基準)があります。AI 医療機器を伝えるときも、拠り所となる考え方は変わりません。「AI だから賢い」という印象で語るのではなく、承認された使用目的の範囲で、事実に即して伝える。それが柵の内側にとどまる道です。

09本サイトの他の章との接続

今回の内容は、次の章と読み合わせると理解が深まります。

結語

AI 医療機器は、「賢いソフトウェア」であるだけでは世に出せません。プログラム医療機器(SaMD)としてリスクで分類され、意図した使用目的の範囲で有効性と安全性を示し、PMDA の審査を経て承認される ── この道筋を通って初めて、患者さんのもとに届きます。そして AI 固有の難しさである「学習して変わり続ける」性質には、変更計画確認手続(IDATEN)が応えます。改良の道筋を先に約束することで、速さと安全を両立させる仕組みです。

承認はゴールではなく、市販後の管理の始まりです。データドリフトで性能が静かに落ちる危うさを見張り、劣化時の対応まで上市前に決めておく。広告・情報提供の柵 ── 66 条の誇大、68 条の未承認、68 条の 2 の情報提供 ── は、AI 医療機器にも同じように及びます。規制を、開発の後に貼る化粧ではなく、設計の骨格に組み込む。そうして、AI の速さと、医療機器としての信頼を、一つの製品の中で結ぶ。次回は、その先にある倫理 ── 公平性・説明可能性・同意 ── に進みます。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. AI 医療機器の多くはプログラム医療機器(SaMD)に当たり、リスクで 4 クラスに分かれる。病変検出や治療用アプリはクラス II 後半〜III で、PMDA 審査を経た大臣承認が要る。問われるのは「賢さ」でなく、意図した使用目的の範囲での有効性・安全性。
  2. 学習し続ける AI には、変更計画確認手続(IDATEN、2020 年施行の改正薬機法で導入)が応える。将来の改良の範囲と検証方法をあらかじめ承認しておき、計画内の変更は再申請なしに実装できる。無制限の学習ではなく、改良の道筋を先に約束する仕組み。
  3. 承認は管理の始まり。データドリフトで性能が静かに落ちるため、市販後の性能モニタリングと劣化時の対応を上市前に設計する。広告は薬機法が及び、誇大は 66 条・未承認は 68 条・情報提供は 68 条の 2 ── 条文を取り違えない。
出典·参考文献
  1. 厚生労働省. 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法). 昭和 35 年法律第 145 号(プログラム医療機器の規定・第 66 条・第 68 条・第 68 条の 2 を含む). (一次法令)
  2. 厚生労働省. プログラムの医療機器への該当性に関する基本的な考え方について. 医薬・生活衛生局長通知, 2021 年(令和 3 年). (SaMD 該当性判断の基準)
  3. 厚生労働省. 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(変更計画確認手続=IDATEN の導入). 令和元年法律第 63 号, 2020 年施行. (継続的改良の承認制度)
  4. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA). 医療機器の承認審査・相談業務に関する各種通知・手引き. PMDA. (審査・対面助言の実務)
  5. 厚生労働省 医薬・生活衛生局長. 医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン(販提 G). 2018 年(平成 30 年). (販売情報提供活動の物差し)
  6. 厚生労働省 医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課長. 医薬品等適正広告基準について. 2017 年(平成 29 年)通知. (広告表現の基準)
  7. International Medical Device Regulators Forum (IMDRF). Software as a Medical Device (SaMD): Key Definitions / Possible Framework for Risk Categorization. IMDRF, 2013–2014. (国際的な SaMD 分類の枠組み)